1人が本棚に入れています
本棚に追加
結局キミしか見えてない
「パニック映画っぽい舞台を作りたいのだよ!」
「……わっちゅ?」
その言葉を聞いた時、僕は思わずひっくり返った声を出していた。
ここ我が高校の、二年三組の教室。
現在休み時間。目の前にいるのは僕が所属する演劇部の部長である、桜坂花見だ。名前の通り賑やかで楽しいことが大好きな彼女に、僕は中学生の頃から振り回され続けている。
今日だって、相談事があるからと僕のクラスまで押しかけてきた彼女は突然こんなことを言い出した始末。まったく話が繋がらない。確かに、そろそろ秋大会でやる舞台の内容を決めなければいけないなー的な話はしていたし、引退した三年生の代わりに部長を引き継いだのが花見で、副部長を引き継いだのが僕ではあるが。
「……ごめん、話まったく見えない。パニック映画みたいなのって、ナニ?」
僕が混乱しているとわかったのか、彼女は長いポニーテールをいじりながら告げた。
「昨日、配信で“デイ・アフター・トゥモロー”を見た」
「謎は全て解けた」
なんでそんな微妙に古い映画を見たんだ、と心の中でつっこむ僕。多分ローランド・エメリッヒ監督によって作られた、2004年公開(だったはずだ)のパニック映画のことだろう。地球が突然氷河期になっちゃって人々が逃げまどってあれやこれや、的な内容だったはずだ。以前親がDVDをレンタルて借りてきて見た覚えがあるので知っている。
「私はね、元々ハリウッド映画に憧れていてだね!」
中学からの同級生であり、ぶっとんだ言動と行動で有名な彼女は。僕の机に足をかけて必死でアピールした。スカートが派手にめくれてパンツがチラ見してしまい、僕は思わず頬を赤くする。はしたないからやめてくれと言いたい。わざわざ靴脱ぐのめんどくさくないのか、こいつは。
「派手で!華やかで!壮大で!どっかーんばっかーんずっどーんでキャーでうわーで泣けるすごいSFとかファンタジーとかを作ってみたいと思ってだね!あの映画を見たらまさにこれだ!ってズビビビビビビビっと来ちゃったわけだよ!」
「おい語彙力」
「細かいつっこみするでないぞ慶介!そんなわけだから、お前にもそういう映画……じゃなかった、舞台を作るために知恵を貸してほしいわけだ、おわかり?」
「……まあ、なんとなくわかりましたけど」
相変わらず暴走してるなあ、と僕は引きつり笑いを浮かべるしかない。
彼女の、演劇や創作に対する情熱は本物だ。問題は、いつも思いついたら即行動!すぎて周囲を振り回すこと。そして、その思いつくことがとんでもなく突飛なことが多いのである。
突然“ずっと同じ耐性でいたら筋肉がどうなるか実験するう”とか言い出して壁の前で謎ポーズを取り始めたり(すぐにトイレに行きたくなって断念した)、数学で赤点を取りそうなので先生を洗脳する薬を作りたいとか言い出して理科室に突撃しようとしたり(そんな理由で鍵貸して貰えるはずがない)、恋愛ドラマでヒロインを押し倒す俺様男の気持ちを知りたいから試しにキスをしてくれと迫ってきたり(そんな理由でキスされてたまるか!と僕は逃げた)。
とにかく、考えることが斜め上にかっとんでいる。今までの事例に比べたら、今回の思いつきなんて可愛いものではあるが。
「……どうやって?」
僕は至極真っ当につっこんだ。
忘れていないだろうか。僕達は、あくまで高校生の演劇部だということを。
最初のコメントを投稿しよう!