結局キミしか見えてない

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 ***  高校演劇とプロの演劇には大きな違いがある。  一つは舞台。当たり前だがプロがやるほど大規模な舞台は作れない。広さもそうだが、何より装置的なものが用意できないし、大道具や小道具も限られている。  また、暗転やスポットライト、サスなどのライトで演出することはできても、配置した大道具を移動することはほぼ無理だと言っていい。プロの舞台装置のように、暗転中に大道具が自動で移動してくれるシステムなどはないからだ。  勿論、上演時間だって限られている。大会なのだから、それをオーバーしたら一発失格だ。  勿論予算の問題もあるので、高い道具や衣装を購入することは叶わない。――そんな状態で、ハリウッド的な盛大な舞台を作ろうというのはかなり無理があると思うのだが。 「現実的に考えて、パニック映画は無理だろ」  僕は手をひらひら振って告げた。 「特に気象でどうのこうの、みたいな?デイ・アフター・トゥモロー系のものは物理的に無理。諦めろ」 「諦めがはやいん!安西先生も諦めたら試合終了だつってたろうが、慶介!」 「そもそも試合が始まってねえよアホ」  無理なものは無理だ。大体、うちの部は僕と、彼女と、二年生一人に一年生が五人という、なんとも心もとない人数しかいない。三年生はみんな引退してしまっているし、受験生に裏方のヘルプをお願いするわけにもいかないだろう。  うちの学校の部活の予算は、人数が多ければ多いほど増える傾向にある。今年一年生が五人入ってくれただけでありがたいと思うレベルなのだ。少しは予算も増えるだろうが、だとしても大掛かりな道具を揃えるだけの余裕はないだろう。 「うう、でも、パニック映画みたいなのさ、作りたいんだよう」  僕がそう言っても、彼女はまったく諦めてくれないようだった。デイ・アフター・トゥモローは諦めるからさあ、と言いつつなぜか机から降りて、机の下に引っ込んでいこうとする。  あの、頼むから僕の足の間に顔を突っ込みかねない角度はやめてくれませんかね。誤解されそうなんですが。 「人が本能的にさ、恐怖感じてパニックになるようなもの作りたいの。例えばそう、狭いところに閉じ込められるとか!」 「あ、机の下に入ったの、そういう?」 「こういう狭いところに閉じ込められてガチガチに固定される系の拷問もあるらしいよ?結構苦しいらしいし、体が動かなくて閉じ込められるって普通に怖いよね?スカベンジャーの娘だっけ?」 「まーた変なことばっかり知ってる……」
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