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「うーん、私もそれは考えたけど。地味じゃない?」
「地味かどうかは演出と脚本と演技次第だと思うけどな。あと、感動的なハッピーエンドに至るための障害は、何もパニックじゃなくてもいいじゃないか」
例えば、と僕はあさっての方向を見て言う。
「最終的に恋人が結ばれてハッピーエンドになる話でもいい。その恋人のヒーローを寝取ろうとするような悪女が出るとか、身分の違いで簡単に結婚できないとか、戦争が二人を引き裂くとか……そういうのでもありだろ」
「恋愛モノかあ」
多分、花見は特に意識などしていないのだろう。それでも。
「慶介は、恋愛に興味あるの?」
その言葉に、僕はついドキっとしてしまう。言葉に詰まってると、花見はあっさりと続けてくる。
「私、マジの恋愛なんてしたことないから、恋の障害と言われても想像つかないし。ハッピーなデートとかそういうのも、どうすればいいのかなあっていうか、どう楽しいのかとか、幸せなのかとかよくわからないというか。慶介は恋愛したことあるのかあ?」
「…………」
これは、と僕は思った。
ちょっと強引な話題転換をした自覚はあったが、まさかこうもうまくいこうとは。
「……一応、ある」
ある、というか。
現在進行形なのだと、彼女は本気で気づいていないのか。大体、ただ心配だからという理由だけで、彼女と同じ高校と部活に入りたがると思うのか?相変わらず、鈍いったらない。
「なんだよ、じゃあ……僕とデートの練習してみる?恋人ゴッコ的なかんじで。そうしたら、恋愛モノの良さもわかるんじゃねえの」
かなり攻めたことを言ったつもりだった。しかし、花見はまったく気づかず“ほんとか?”と目を輝かせてみる。
「おお、それはいい考えだ!慶介、よし、今度の土曜日デートしよう!いい舞台のアイデアも見つかるかもしれん。あ、一緒にパニック映画を見に行くのどうだ?」
「声でけえ!ていうかそれも諦めてないのかよ!」
「恋愛とパニック、どっちがいいのかデートで決めるのだ。悪くなかろう?はっはっはっは!」
ああもう馬鹿。僕は真っ赤になった顔を隠すべく、机に突っ伏したのだった。
彼女との日々は飽きない。部活は楽しい。しかしそれ以上に。
――僕の心臓、いつまでもつんだろうか。
君しか見えていない事実。彼女が気付いてくれるのは、相当先になりそうだ。
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