好きだと伝わればいいのに。〜優斗サイド〜

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夏も深まり、八月。お盆も過ぎ、優斗は休暇明けの気怠い身体を引きずり出社するための道を歩いている。 (昨日は一段と激しかったな) ズキズキと痛む腰を摩りながら、そんなことを考えて、頬に熱が籠る。 といっても、特別な何か。たとえば、正式に恋人になったとか、そういうことはない。 お盆は優斗も蓮二も実家へは帰らなかった。優斗も蓮二も、実家は車で四時間ほどかかる。帰ったり帰らなかったり、お盆の過ごし方はその年によって様々だが、蓮二と知り合ってこういう仲になってからはめっきり帰らなくなった。 (僕も大概だよな) 男に振り回されて実家にすら帰らない、なんて昔のまだ何も知らない自分が知ったら驚いて呆れるだろう。 自分自身、驚いているし呆れている。けれど、やめられない。 あの頃はただ、好きな気持ちを隠しておくことに必死だった。好きだとバレないように。 と、過去に引きずられそうになり、これから仕事だろと喝を入れていると、後ろから名前を呼ばれた。 「中原、聞いたか?」 同時に肩を組まれる。最初はその距離の近さに驚き、若干引いたが今ではもう、佐々木の行動に一々驚きはしない。 「なんだよ、朝から」 「なんかさ、噂によると本社からエースって呼ばれてるイケメンが来るらしいぜ?」 優斗の会社は子会社で、本社は都内にある。定期的に本社からエースと呼ばれる社員が来ては去っていくのが恒例だった。 「イケメンって、佐々木はいつもそう言うよな」 「いや、今回はマジだから!女性社員もずっと噂してるし!」 まじかよ、と言いながら少しげんなりした。たしかに本社から来る社員はエースだが、癖があるのだ。 中には女性社員を取っ替え引っ換えする社員もいるそうで、わかっていながらも管理職は見過ごしている。 ただ、それだけだったらまだいい。最悪なのは二股三股に気づいた女性社員が傷心のために会社を休んでしまう、つまり業務が滞るのだ。 また、残業になるかもな。 仕事は好きだから良い。自分に合っているとも思う。ただ、蓮二に会う時間が減ってしまう。 (いや、だよな。やっぱ)
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