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どれだけ好きなんだよ、と突っ込んだ。
オフィスに着くと、いつもより雰囲気が浮き足立っていた。
「ええっと、みんなも知っていると思うが、本社から来てくれた藤吉さんが今日から仲間として働くことになりました」
「藤吉 樹貴です。ご迷惑をおかけすることもたくさんあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
部長と藤吉が挨拶をする。声にはならない心の叫びが聞こえてきそうだ。
考え、いつもならげんなりするところが、優斗は全くげんなりしていない。
「じゃあ、ペアは中原!お願いできるか?」
「よろしくお願いします、中原さん」
唇をほんのり引き上げて微笑まれる。瞬間、鳴った胸の高鳴りを誤魔化せない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
高鳴る鼓動に負けそうな小さい声で言うことが精一杯だった。
***
藤吉は優秀だった。教えたことは一度でできてしまう。
「データ、できたので送っておきますね」
「あ、ああ、すみません。でも、頼んでなかったのに」
「時間あったので勝手にやっちゃいました、すみません」
申し訳なさそうに言う。きっと本心なのだろう。
つまり、中身もイケメンなのだ。
(先輩も今頃はこんなふうになってるのかな)
ふと、思ってしまう。最近、そんなことが増えた。
というのも、藤吉のせいなのだ。藤吉は大学の頃から付き合っていた先輩に似ている。
決して先輩を今も好きではない。けれど、好きだったし憧れていた。
先輩みたいな人になりたいと思っていた。
(元気だったらいいな)
就業中なのに思わずそんなことを心に思い浮かべていると、佐々木に声をかけられた。
「中原も行くだろ?歓迎会」
「あ、今日だったっけ。行くよ」
優斗の会社はマメで、そういうイベント毎を好んでする。
歓迎会の居酒屋へと移動した。華の金曜日ということもあり、みんなが開放感に包まれている。
優斗も食事に酒にと、ペースを上げる。最近、蓮二も優斗も仕事が忙しく、すれ違いの日々だった。
ふと、昨日の晩の蓮二を思い出す。
『ああーむしゃくしゃするな』
『なに、どした?』
『…なあ、セックスしようぜ』
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