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時刻は深夜十一時。藤吉とペアを組むことはさして苦痛ではないが、やはり普段一人で作業することに慣れてしまうと疲れを感じる。
『俺、疲れてるから』
『…お前、最近、それ、増えたよな』
『それってなに』
『わかんねーならいい』
吐き捨てるように言うとベッドから離れていく。そのうちに扉が閉まる音が聞こえた。
(結局、他の人のとこ、行ったんだよな)
どうせ1番にはなれない。永遠に二番目だ。
わかっているのに、わかりたくない自分が嫌で、浴びるように酒を飲む。
「中原さん、ペース早いですね」
と、いつからいたのか、隣から藤吉の声が聞こえてきた。
「いや、今日はちょっと」
「ああ、そっか。僕が疲れさせちゃってますよね」
「え?いやいや、全然そんなことは」
「そうですか?じゃあ、何かありましたか?」
ビールとビールの間、顔を覗き込むようにして問われる。
「大したことじゃないです。同居人と喧嘩?みたいな感じになって気まずいというか」
「同居してる人いるんだ。もしかして彼女ですか?」
「いや、男です。悪友みたいな」
まさかセフレとは言えず、そう言う。たしかに自分達はある意味、悪友に近いのかもしれない。
「そうなんですね。でも、いいなぁ、ルームシェアってやつですよね?僕、本社とか支店転々としてるので一人暮らし長くて。だから憧れます」
「転々としてるんですか?」
「はい。東北から九州まで行きました」
本社の人間が支店に配属となることはよく聞いていたが、そんなに幅広いなんて。と、驚いていると、藤吉が「気になります?」と言う。
「どうしてですか?」
「こんなこと、上司の方に言ったら失礼かもしれないので酒の席だけってことにしてくれますか?」
「失礼って、余計気になりますけど」
「中原さんって結構、顔に出やすいですよね?」
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