5 みつめるもの

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 モール内では記憶に新しい歌がかかっていた。車内で聴いたサブリナ・カーペンターだった。認識した瞬間、モールの雰囲気がガラリと変わる。  冬火に言って流してもらわなければ、ただの無名の曲として春海の道を通り過ぎていったはずだ。  知っていると、見えるものが変わる。  そんなもんか。  春海はなんだか、拍子抜けなぐらい晴れ晴れとした気持ちだった。  店から出てきた夏生と西春は、小さな紙袋を一つ下げていた。早い。さらに次の店へと向かっていく。それを春海と冬火が遅れて追いかける。  結局春海の服はサイズが違って入らなかったので、上から下まで全部買い揃える予定だった。  店を出たり入ったりするうちに、少しずつショップバッグが増えていく。どうやら順調に買い足しているらしい。  紙袋が両手で足りないくらいになってきた頃、珍しく夏生が一着のコートの前で足を止めた。 「……これ、好きかも」 「おっいーじゃん! 今日買ったやつも込みで、ちょっと試着してみません?」 「え、いいのかな、コートはともかく別の店で買ったのは……」 「全体の雰囲気大事ですから。さっさっ!」  西春と夏生が試着室に消えていく。  それを見送った春海は冬火とふたり、店内でなんとなく、並んで待つことにした。 「……。春海ちゃん、」 「なに」 「夏生ちゃんと仲直りしてくれて、ありがと」 「べつに……」  むしろ礼は自分のほうがするべきだと春海は思った。  冬火がけしかけなければ、おそらく永遠に兄とは口を利かなかった。 「……俺も、ありがとう。」  冬火は俯きながらスマホのスワイプを繰り返していた。相変わらず派手なネイルだ。 「……、でもなんで今になって、」 「……だってこないだ春海ちゃん、あたしの学費出してくれたでしょ。専門学校の」 「え? ああ……出したけど」
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