4 にせもの

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 誰と行くの、とか、どんな服がいいの、とか。  頭の中ではメモ通りの言葉が出てくるのに、それが口まで降りてこない。  この数年間の沈黙が、口の中で洪水になって溢れかえり、言葉を紡ぐのを妨げていた。 「……兄ちゃん、」  かろうじてそれだけが出る。 「うん。」  夏生は春海をじっと見つめ返した。 「春海、久しぶりに喋るね」  そう言われた瞬間、線の切れたエレベーターのように、屋上から地下まで一気に落下していく心地がした。倒れ込んでしまいそうだった。もはや何かを喋る、余裕がない。 「……、」 「嬉しいな。たぶん、冬火に言われたんだろうけど、でも……嬉しい」  何も言えなくなった春海の代わりに、夏生が立ち上がって歩いてきた。 「部屋で服、見せてくれる?」 「……ん、」  ぎこちない足取りで春海の部屋へ向かう。向かいの冬火の部屋から、ほのかに視線を感じる。
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