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ずっと同じだったはずだ。ずっと。
しゃべらなくなってから、それすらも比較するのをやめた。背比べをするほど近くに寄らなくなったからだ。
数年ぶりの背中は、思ったよりも広い。
よく見たら、兄が着ている中学のジャージはもはや七分袖の様相だった。
袖口から、自傷の跡が垣間見える。古傷ばかりで、新しいものはなかった。
「……兄ちゃん、でかくなった?」
「え? なったかな? どうだろう、十年くらい背も測ってないから……」
「だって、こないだまでずっと、」
ずっと俺と同じだった、と言い終える前に、涙のほうが先に出てきた。
兄の背を窮屈そうに包むコートを見ながら、春海はようやく、兄と自分をがんじがらめにする鎖が壊れるのを感じた。
その中から、繋ぎ損ねた一本の糸が顔を出している。
ずっと、繋ぎ直したかったもの。
「泣くほど似合わない?」
「……うん、」
「たしかに、ちょっときついなぁ。でも、僕のよりずっといいコートだし……よし、これにしようかな」
「……やめてよ。パツンパツンじゃん。コートも泣いてる」
「ええ……そう? じゃあどうしようかな……」
「買いに行こう。一緒に、」
春海の提案に、夏生は驚いて振り向いたまましばし静止したが、やがて名前を呼ばれた子犬のような顔で微笑み、「そうだね」と小さく言った。
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