4 にせもの

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 ずっと同じだったはずだ。ずっと。  しゃべらなくなってから、それすらも比較するのをやめた。背比べをするほど近くに寄らなくなったからだ。  数年ぶりの背中は、思ったよりも広い。  よく見たら、兄が着ている中学のジャージはもはや七分袖の様相だった。  袖口から、自傷の跡が垣間見える。古傷ばかりで、新しいものはなかった。 「……兄ちゃん、でかくなった?」 「え? なったかな? どうだろう、十年くらい背も測ってないから……」 「だって、こないだまでずっと、」  ずっと俺と同じだった、と言い終える前に、涙のほうが先に出てきた。  兄の背を窮屈そうに包むコートを見ながら、春海はようやく、兄と自分をがんじがらめにする鎖が壊れるのを感じた。  その中から、繋ぎ損ねた一本の糸が顔を出している。  ずっと、繋ぎ直したかったもの。 「泣くほど似合わない?」 「……うん、」 「たしかに、ちょっときついなぁ。でも、僕のよりずっといいコートだし……よし、これにしようかな」 「……やめてよ。パツンパツンじゃん。コートも泣いてる」 「ええ……そう? じゃあどうしようかな……」 「買いに行こう。一緒に、」  春海の提案に、夏生は驚いて振り向いたまましばし静止したが、やがて名前を呼ばれた子犬のような顔で微笑み、「そうだね」と小さく言った。
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