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あとから見てわかったのだが、夏生のクローゼットは絶望的だった。
彼が外着として持っていたのは、ヨレヨレの黒いパーカーと、穴の空いた――そういうデザインというわけではなく、着ているうちに空いてしまった天然ダメージの――デニムのパンツ。
それが二着ずつ。
半袖はない。通年長袖のパーカーを着用し、夏は袖をまくり、冬は中に着込むことで体温調節をしているらしい。修行僧か?
鞄は高校通学用に買ったリュックが一つ(これも穴が空いていた)、それにバイトに持っていくというボディバッグが一つ。小物らしい小物はそれぐらいで、もちろんアクセサリーの類はない。
思い返してみれば、春海の記憶の中の夏生はいつも似たような服を着ていた。あれは単なるイメージでもなんでもなく、実際に同じ服ばかり着ていたのだ。
これは本格的に、西春の出番だ。
春海はスマホを取った。
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