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5 みつめるもの
夏生、春海、冬火の三兄妹が揃ってアウトレットモールに出かけるときいて、父母は仰天していた。
別に冬火までついてくる必要はなかったのだが、彼女も服が見たいとかで、強引に兄の車に乗り込んできた。
冬火は何も言わずに車内のオーディオ設定を変え、勝手にBGM奉行をつとめはじめる。
爆音の洋楽ヒットチャートが、久々に揃う三人の隙間を埋めていく。何の曲は全くわからない。
車窓からの風を受けながら、春海はふと思いあたる。
「冬火の好きなやつ、なんだっけ? なんとかカーペンターズ?」
「ちょっと、」
ぷりぷりしながら冬火がスマホを操作する。
「サブリナ・カーペンターよ。ズはいらないの」
気だるげなイントロが車内に広がった。
冬火がボリュームをさらに上げる。
なるほどこれが、と聴いてみたがやはり知らない曲だった。
ただ、それを好きだという冬火の横顔に羽音のような甘ったるい歌声が重なって、その表情がいつもより輝いて見えた。
晴れたモールの入口で、白いシャツの洒落た男がベンチに座っていた。男は春海たちを見るなり立ち上がり、大きく手を振った。
西春だ。
彼を呼んだことは、兄妹たちには伏せてあった。
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