中途採用

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中途採用

 4カ月程前のことになる。俺の所属するシステム営業部に中途採用の新人が入って来た。  名前は”山野徹”、年齢は俺の一つ上で34歳。高そうなスーツに磨かれた靴と小奇麗に纏めてはいるが、何処か野暮ったく見える奴で、とにかく良く喋る男であった。  課長の話では人事部での評価は高く、即戦力としても期待しているとのこと。なんでも、技術系の資格を幾つか持ち、前職ではその資格を生かすことで営業成績も良かったと言うのだが、俺には何処か胡散臭さが見えてしまい、最初から余り良い印象ではなかった。  我が社の人事部は資格を持っていると言う言葉にとにかく弱く、持っている資格は盲目に有効だと思い勝ちである。更に喋りの上手い人を盲目に能力があると思い勝ちでもあり、残念な事に、何度かそのタイプの使えない奴を採用した過去がある。  そんな彼らが評価する人物であると言う事も俺の印象を悪くした要因であったのかもしれないが、とにかく俺は彼とは関わりたくないと思っていた。  ところがである、ある朝その印象の悪かった彼が事前に何の下話も無く俺の元に預けられることとなったのである。  避けたいと思うもの程近づいて来ると言うのが俺の運命の様で、「もしかしたら俺のところに来るのでは?」と思っていたことが彼を呼び寄せてしまったのだろうか?そんなんことを思い、俺は憂鬱になっていた。  突然俺の元に彼がやって来た訳だが、予感はあったとは言え迎える準備などしている訳がない。  困った俺は、その時の思い付きで前々からおざなりにしていた客先の管理表を取り敢えず彼に任せることにした。  使用するソフトは使えると聞いていたので、時間は掛かるだろうがそれ程難しい作業ではないはずである。それなりのものは作ってくっれるだろうことを俺は疑いもしていなかった。  その間に彼の今後のスケジュールも考えられるし、管理表作りは客先を覚えさせることのメリットもある。  決して、彼に雑用を押し付けようと思っての事ではない。
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