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で、その時のことである…
「…要点は今の通りなんだけど山野さん何か質問はある?」
丁寧に必要項目を紙に書き、その意味までも説明をした。ここまで説明すれば、最近事務に入った社会経験の浅い派遣社員にだって作成は可能なはずである。
「ああ、この表計算ソフトを使うんですか。俺、これの資格持ってるんですよ」
俺の説明が終わると、彼は嬉しそうにそんなことを言って来た。
「ああ、そうなんだ」
それを軽く流した俺だったが、まずそこかよと思ってしまう。
頼んだ業務に対しての事を差し置いて資格自慢をして来る彼。その言葉にに、俺は早々に感覚のズレを感じていた。
「主任は、資格持ってるんですか?」
続いて、そんなことまで聞いて来た。
「持ってないけど」
何の振りだよと思っていたら、
「えっ、持ってないんですか」
そんな俺に驚いた顔を向けて来る。
おぅ、いきなりマウントを取って来たな”こいつ”と思ったが、相手は新人、ここは俺も我慢を決める。
「資格が無くても出来る程度のモノだから。まあ、折角だからその資格を生かして見易いのを頼むわ、宜しく」
大人なってそう言い、自分の仕事がある俺はそそくさと席に戻った。
癪に障ったが「まあ作れるならいいか」と自分に言い聞かせて、心を落ち着かせて…
ところが、俺が自分の仕事をこなしながら、時々、彼の様子を窺ってみるも、一向に手が動いていないのが見て取れる。
パソコンと、俺が渡した顧客毎の書類を眺めているだけなのである。その姿はどう見ても悩んでるとしか思えない。
1時間ほど放って置いたが進みそうもないので、しょうがないから彼の元に行くことにした。
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