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「山野さん、何処まで進んだ?」
「・・・」
無回答なので俺がパソコンを除くと、細い罫線が数本ひかれているだけ、表の体もなしていない。
「え~と、何に躓いてるのかな?」
そう聞くと、
「いえ、こう言う表現の仕方が決まっていない物は作ったことが無くて…」
難しいものを任されたとような雰囲気を醸し出して来る。
「こう言うのは資格とは関係ないからねぇ~」
それにフォローと嫌味の中程を突いて言ってみる俺。
「・・・」
言葉が出ないところを見ると嫌味と取ったようである。俺としては、”嫌味と取って有難う”そんな気持ちなのだが、そこは顔には出さずに喜びを噛みしめる。しかし、この年齢で手が付けられないと言う事は、実業務に対してあまり頭を使って来なかった事が伺える。そして、更に彼は口が達者でもある。となると、まあそう言うタイプだとしか俺には思えない。
これは手強い相手になりそうだ。そう思った俺は急遽方針を変更、彼を新卒社員と同様に扱うことに決めた。
「じゃあ取り敢えず罫線引いてみようか。項目数は12個にして…」
彼は空白の表も即座に作れないようである。
「ああ、じゃあこれはいいや俺が作るから」
つい呆れてそう言ってしまう。
「・・・」
それに無言を返す彼からは、自分の手を離れることにホッとしているのが見て取れた。全く覚える気がないようなのである。
恐らく彼は丸暗記をして資格を取ったのだろう。そう言うタイプは、答えが決まっていない事に非常に弱い事が多い。しかも彼は短期記憶型のようで忘れるのも早いようだ。
きっと、自分としては覚えていたつもりではあったのだろう。だけど、実際に使用してみると、殆ど覚えていなかった。そんな感じなのだと思う。
30歳半ばにもなって未だ自分の能力を分かっていない自信家と言うのは、始末に悪い。
他にも情報技術系の国家試験も持っているような事を言っていたが、きっと既に忘れているのだろう。もしかすると、その前に難しい資格は本当は持っていないことも考えられる。
もし、そうであっても多分俺は驚きはしないだろう、そんな意味の無い自信がその時湧いて来てしまっていた。
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