言い訳

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言い訳

 我が社は基本タクシーの利用は、止むを得ない事情を除くと禁止。ただ、止むを得ず利用した場合は、レシートの裏に乗った場所と降りた場所の記入が必要となるのだ。彼はそれを書かずに経理に提出していたのである。  彼の理屈では、交通費精算の伝票を見れば分かる事だから意味が無いだろうというのだが、彼は歩くと言う行為を忘れている。  何処から何処まで乗ったかと金額がそれなりに合致しているかを経理は見なければならないのだ。  それを彼に言ったのだが、納得がいかないようである。 「それは、会社の決まりだから書かないとな」  俺がそう言うと、 「でも、それ意味ありますか?今回は1メーターだけだし」  やはり反論が始まる。 「今回はな。でも、いつも1メーターとは限らないし、今後は1日に2回乗ることもあれば、何日か分の精算をすることもあるからな。書いた方が経理のチェックがし易いからな」 「でも、今回はタクシーに乗ったのも1回だけですよ?」 「1日分の精算は書かなくていいとか、1メーターまでは書かなくてもいいとか、そんな複雑なことをするよりも全部書くことにした方が単純でいいだろう。それに、タクシーのレシート自体がホントにそこで利用したものかってこともある。精算する者が間違って違うレシートを出してしまう事も無いとは言えない。不正だけでなく間違い防止になるから、まあ書くことだな」  俺がそう言いその場を治めようすると、それでも食い下がって来る。 「そんなの間違えますかね?このつまらない決まりって、一体誰が決めたんですかね」 「そりゃあ、最終的には社長の承認だろう」 「じゃあ、当然社長も書いてると?」 「それは秘書がやってるんじゃないの」 「秘書の代わりに経理がやってもいいんじゃないかと俺は思いますよ」  それには経理の女性がムッとして口を開きかけたが、彼女が彼と喧嘩する必要は無い。ここは俺が収めた方が、彼女にとっては今後の彼とやり取りがし易いはずである。彼女を宥めて俺が口を開く。
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