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 結局そのお陰で、今度も俺がやり直すことになり、客先が希望した当初の予定納期に間に合わなくなってしまった。  ただ、そこは彼の鍛え上げた口先が、上手く客先のせいにすることで切り抜けたので問題にはならなかった。  ただうちの会社、特に俺に大きな被害が有った分けだ。それに、この先出会う客先によっては怒り出す担当者もいるだろう。  俺はそれを刻々と彼に説いたが、仕舞には自分は”褒めた方が伸びる”と言いだす始末なのである。  それまでも別に怒った訳ではないが、手抜きが多いので俺からの指摘も多かったことは間違い無い。口煩く思われていても、まあ仕方がないとは思う。  そこで、俺はそこまで言うのならと、彼の希望全面に叶えてやることに決めた。今後は、何があっても全て前向きに褒めとしたとしたのである。  例えば、彼が担当物件の割に外出ばかりしている時には、「積極的だねと」褒め、遅刻や居眠りをすれば、「睡眠は大切。寝る営業は育つ」と褒める。  タクシーのレシートの裏書がなく経理に指摘されている時には、書きやすい新しいボールペンをそっとプレゼント。  交通費を敢えて高い路線を使っている時には、「OH!冒険王」と一言の合いの手。  再び客先に提案書を任せっ放しなのを見つけた時には「斬新なやり方だな」と称賛。  それ以降、指摘は止めご要望を叶えてやったのである。  俺の変わりように彼も怪訝そうな顔はするものの、心地よいのだろう、一向に改めようとはしなかった。  俺も精神的には注意するよりも、褒める方が楽なので俺の精神も安定する。  もちろんそこまでする為には、彼の担当から俺を外してもらい、課長の直下にしてもらう事は言うまでもない。  こんなことが1カ月弱続き、間も無く使用期間の3か月を迎えると言う時、彼は失敗に次ぐ失敗、カラ出張の交通費精算のバレ、社長に居眠りを見られる等々で、結局会社を辞めざるを得なくなったのである。  もちろん、客先に関しては課長の下、皆で陰からフォローしていたので大事には至ってはいない。
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