あなたのための曲

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 「ねえ、何をしてるの?」 私が声をかけた子はびっくりした顔で私のことを見た。 「え、あの…」話す言葉が浮かばないのかずっともじもじとしているこの子はきっと公園の真ん中でやっているサッカーというものに混ざりたいのだろう。 「暇なら、私と遊んでよ。」私がそう言ってあげると、瞳を輝かせて大きくうなずいた。 「何してるの?」 「何って音符書いてるの。」私が地面に五線譜と音符を書いて行ってるとその子は首をかしげて、眺めていた。 「そういえば、…遊ぶって、なにするの?」という質問に私は歌詞を一緒に考えてほしいとだけ答えた。「それって、遊びなの…」とか言っていたけど私は聞こえていないかのように音符をつなげていった。 「よし、できた!この曲の歌詞を一緒に考えてほしいの!」私が顔を上げてそういうと彼は「歌詞って言っても僕音楽の授業くらいでしか歌ったことないよ」と、縮こまったようにしたが、そんなこと問題ではない。 「私、この曲を完成させて、歌いに行かないといけないの。もう、誕生日が来ちゃうから。」そういうと「誕生日?」と首をかしげる彼。 「そう!小学校最高学年になったら誕生日の曲を作ってあげるってお父さんに約束したの。で、その誕生日の日が明日なの。」 彼は「明日!?」と声を上げる。 「一番の誕生日にしてあげたいのお願い。」私は彼に頭を下げてお願いすると、「まあ、あまりできることはないけど…」と言葉を濁しながらも肯定を示してくれた。  歌詞は全くと言っていいほど思いつかなかった。だから、二人で誕生日の曲をスマホで調べては歌詞を持ってきたりくっつけたりした。そんなことをやっていたら、真っ青にきれいだった空も、茜色に染まり始めて先ほどまでサッカーをしていた子たちもいつの間にかいなくなっていた。 「ありがとう。これなら…」私が紡ごうとした言葉はあっさりと止められてしまった。「あら、あなた最近隣に引っ越してきた壮太君じゃない?一人で何をしているの?こんな夕方にお母さんが心配するよ。」「え?一人って…?」彼はそう言葉をこぼした。私の方に目をやる。目が合ったその顔は何とも言えない表情だった。「君は…」彼は私を見る。ああ、もう時間になってしまう。 私は彼の声を聴かずに完成した曲を歌い始めた。 「明日、誕生日なんでしょ? 私あなたのためにずっと考えてたの。絶対忘れないでよね。 私ここまでできるようになるんだから。」 「ん…」目が覚めるとベッドの上だった。 「会えた?」そう聞かれる。「うん、一瞬でわかったよ。だって、顔が全く変わってないんだもの。あんな、優しい顔忘れられないよ。」 「そっか。良かった。」そういった女の人は私の近くにあるお香をとる。  そのお香は、亡くなった人に一度だけ会えるっていうお香。ただし、それがいつの時かも、どのタイミングで消えちゃうのかもわからない。ただ、消える少し前にそのお香の香りが鼻をくすぶるのだ。 「ありがとうございました。」私が荷物をまとめお礼を告げる。彼女は微笑むだけだった。このお店に来ることはもうないだろう。なんてたって、このお店はどうしても会いたい人がいる時に一回だけで会えるというなぞのお店。  このお店に行ってから、血眼で探している人がネットでいたが、いまだに見つかっていないのだそう。「さようなら。」お父さん。
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