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撃たれた――――と思ったが、どこも痛くない。恐る恐る目を開くと、微かに火薬の香りが鼻腔を掠める。
「おま、え……なにを」
廊下の向こう、曲がり角辺りに血溜まりが出来ていた。通りがかった信者が男に撃たれたらしい。
何事かと音で駆けつけた信者たちが集い、つん裂くような悲鳴が響き渡る。
「何してんだ、お前」
振り向いてみると、髭面の大柄な男が黒スーツ姿で小ぶりな拳銃を構えていた。
華奢な新太を見下し、ニッと汚らしい歯を覗かせて男は笑う。
「この巣は伊織だけのものではない。……我々八ノ宮家のものだ」
「わけ分かんねぇ……! 銃を、おろせ……!」
新太が叫んだ間にもパァン! パァン! と再び銃声が響く。振り返ってみれば、また数人撃たれている。急所を撃ち抜いているのか、倒れた者たちはピクリとも動かない。
ぎゃあぁとすっかり辺り一帯が混乱に落ちた。
「やめろ……っ!」
男に掴みかかるが、太い腕で軽々と投げ飛ばされる。バァンと背中を壁に打ち付け、新太は悶絶しながらその場にうずくまった。
「いってぇ……!」
「……俺は八ノ宮鈴芽という者だ。伊織とは実の兄弟だ」
(伊織の、兄ちゃん……もしかして、家出してたっつう、次男の)
次男の兄、かつて洋蘭と共に殺しの仕事をこなしていたと聞いている。どうにも伊織と血が繋がっているとは思えない粗暴な様相だ。
その鈴芽という男はやけに鋭く畏怖を覚える目つきで、足元に転がっている新太に銃を突きつけながら笑みを浮かべた。
「蜂玉園、財力や洗脳能力に優れた団体だ。是非に継ぎたいと思っていたが、生憎俺は適性が無かった。……だが母上亡き今、信者も減少し組織が脆弱と化しているこの状況。掌中に収めるタイミングだとは思わんかね」
鈴芽に腹を蹴り付けられ、新太は小さく呻き声を漏らす。
負けじと鈴芽を睨みつけ、ハッと嘲笑を絞り出した。
「だからって、のこのこ、戻ってきたのかよ。……女王は、伊織だ。伊織以外には、務まらねぇ」
「あいつはただの飾りだ。組織を動かすのは誰でもいい。実は新しく組織を作り直そうと思っていてな、伊織やここの王乳、蜂蜜、全てを利用させていただく所存だ」
「んなこと、させるわけ」
ガン!今度は頭を踏みつけられる。
力も強く大柄、さらには拳銃となると手がつけられない。
(やべぇ……このままだと、伊織が)
身動きも取れずギリギリと歯軋りしながら策を講じようと頭を巡らせていると。
駆け寄ってくる足音が廊下に響く。
「な、なんやこれ……! なにが、どうなって……」
「とう、り」
彼の声が聞こえ、新太は思わず呟く。
すると彼もこちらの様子に気づいたらしく、鈴芽の前に立ち塞がった。
「なんやお前ぇ! なんちゅうことしてくれとるんや! 新太を離せぇ!」
「桃李……やめろ……! こっちに来んじゃねぇ……っ!」
ギリ、さらに頭を踏み付けられると同時に。
パァン! 鋭い発砲音が響き渡る。
「――――あ……」
床にのめり込んだ微かな視界に、ぐらりと傾く影が映る。
間違いない。あの特徴的な服の柄と、光るピアスは。
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