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――――撃たれた。
――――桃李が撃たれた。
理解までに数秒かかった。
頭の中が真っ白に冷えわたる。
怒り? 悲しみ? 分からない。
分からないまま、気づけば自分を踏みつけていたはずの鈴芽と向き合い、その大柄な手を掴んでいた。
どうやって動いて逃れたのかは覚えていない。
気づいた頃には体が宙に浮いていた。
――――パァン!
また発砲音が鳴る。
だが撃ったのは鈴芽ではない。
「おま、え……なにを」
新太は奪った拳銃を構え、鈴芽の腕を撃ち抜いていた。
パァン! さらにもう1発。彼の太ももを正確に撃ち抜く。
「ゔあっ」と彼の悶絶する声が響く。
――――殺しはしない。動脈からは外して、身動きが取れない位置に。
そんな誰でもない声を耳元に聞きながら、新太は拳銃を下ろした。
「桃李っ!」
撃ち抜かれて苦しんでいる鈴芽を放り、血溜まりに倒れている桃李へと駆け寄る。
「桃李、ごめ……オレが、オレが捕まってたせいで」
「だいじょう……ぶ、こん、くらい」
中華柄の胸元が真っ赤に染まっている。みるからに出血多量、顔も青白く生気が抜けていっているのが一目で分かった。
「きゅ、救急車」
咄嗟にスマホを取り出して呼ぼうとするも、その手を桃李に掴まれてしまう。
力なく首を振り、桃李は微笑んでいる。
その手を唖然としながら握りしめ、新太は下唇を噛みながら俯いた。
そうだ。彼はここの信者だ。
どんなに聡明であろうとも、教えを信じきっている信者だ。
「……お前は、ここで生活して……幸せだったのかよ」
思わず新太が涙と共に零すと、桃李は吊り目を大きく見開いた。
かと思えば柔和に微笑み、血でベタついた手を揺らがせて新太のピアスに触れる。
「どうか……姫様を、伊織様を、1人にせんとってあげて。ひとりぼっちは……さみしい、から」
「おい、待て……死ぬな! 桃李っ!」
スッと彼の瞳から光が抜けると同時に。
後方から銃声が鳴り響く。
「……っ」
ふくらはぎに激痛が走り、とたんに生暖かく出血する。
桃李の手を握りしめながら振り返ると、鈴芽が苦悶の表情で座り込みながら銃口を新太へ向けていた。どうやら2丁所持していたようだ。
「なんだ、なんなんだ、お前は。……なぜ銃が、使えるんだ」
撃たれたふくらはぎに構いもせず、新太は身に隠していた拳銃を握りしめる。
「…………知ら、ねぇ。こっちもまだ弾残ってんぞ」
闘犬のように深く呻る新太に睨まれ、チッと鈴芽は舌打ちをする。腕も脚も撃たれたとなれば流石に腕も狂うらしく、銃を構える手も震えていた。
(こっちは3発、あっちは5発か……いや、分からない)
なにぶん銃の種類には詳しくない。
互いに流血しながら睨み合っていると、
「――――と、桃李……っ! 新太っ!」
階段の上段に現れた伊織が絶叫にも近い叫び声を上げた。
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