失せ人さがし    

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 それから30分は経っただろうか。想像以上に早く個室に戻ってきた伊織は、げんなりとした顔で「おい」と扉を閉めながら声を上げる。 「なんなんだよ、キミの友達ってやつは」 「え、湊がどうしたって」 「なんでここの男娼(だんしょう)全員と済んでるんだよ! 聞いてた話と随分印象が違うぞ」 「オレだって知らねぇよ! アイツそういう話は全くしなかったんだって! っていうか、居なかったのか?」 「居るも何も全員と一度済ませてそれっきり、誰にも入れ込んでないって話だよ。今はどこに居るのかも分からない。……そうか、そうだね、なるほどね」  舐め回すように見つめられ、「な、なんだよ」と新太が問い返すと、「いや」と伊織は顔をそらした。 「好みの男が居なかったんだなと」  思わず後ずさりをしてしまう。同性にそういう視線を向けられるのは、どうしても分からない感覚だった。 「……やっぱオレが、やるしか、ねぇのかな」  自らの腕を掴みながら呟くと、伊織はパチパチと瞬きをしたのちに微笑する。 「一般人のキミに男娼のような真似をさせるわけないだろ。大丈夫だ、別の手は打ってある」 「別の手?」  そう返したと同時に、コンコンとノック音が響いた。  伊織が扉を開くと、見知らぬ男性が1人ひょっこりと顔を覗かせる。 「俺だ! ここで合ってるか?」  白髪を茶色く染め上げた中年の男だ。人の良さそうな笑顔で部屋に入ってきた彼に、伊織は「合ってるよ」と少し砕けた雰囲気で返す。 「急に申し訳ない。ここに居る失せ人を探したくてね。彼の友人なんだ」  伊織が新太へ視線を向けながらそう言うと、男は「へぇ」と声を漏らす。 「そっかそっか。やぁ初めまして、榊原(さかきばら)と言います。えっと……とりあえず色々してる者です」  榊原という偉丈夫な中年男性に頭を下げられ、新太も「どうも」と頭を下げる。 「速水新太です。……えっと伊織、この人は」  問うと、伊織は「そうだね」としばし間を置き、 「榊原は、俺がここで信用している者の一人だ。蜂玉園の信者リストを管理してくれている人でね。……例の物は持ってきているね」  そう伊織に問われると、「もちろん」と榊原は抱えているノートパソコンを立ち上げる。それにUSBを差し込んで畳にどっかり座り込んだ。 「ちょっと待ってくれよ〜。探してる子の名前はなんだって?」 「牧野湊。漢字と生年月日は、これ」  先日書いた紙切れを出した伊織に、榊原は「了解」と返事をする。  
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