失せ人さがし    

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   ***  榊原に言われた通り、夕刻まで蜂玉園本家の門の前に立って湊を待つこととなった。 (期待するなって……どういうことだよ。ダンショーってやつにハマらなかったんだろ? まだ戻れる余地あるって考えちゃダメなのか?)  ぐるぐると考えを巡らせていると、となりに立っている伊織が「新太」と声をかけてくる。 「あの車だ。営業車。あの中型バスの中に、牧野湊はいると思う」  やけに静かな声だった。気味の悪さを覚えながらも「わかった」と返事をする。  ほどなくしてバスが門の前に停車した。扉が開き、ぞろぞろと信者たちが降りてくる。 (なんか皆んな……疲れすぎじゃ……)  みんな足取りがフラついており、営業帰りにしても顔色が悪い人が多すぎて困惑してしまう。戸惑いのあまり伊織を見上げるも、彼は表情を変えぬまま信者たちがふらりふらりと門をくぐる様子をじっと見ていた。 「なんだよ、これ……って」  気味の悪さに新太が狼狽(うろた)えていれば、見覚えのある人影がバスから降りてきた。  思わず駆け寄り、 「み、湊っ! オレだ! 新太だ!」  ぴたり、反応するようにその人影は立ち止まる。信者たちを下ろしたバスが去って皆が門をくぐりゆく中、その腕を掴んだ。 「湊、お前……大丈夫か」  間違いなく湊だった。彼も例外なく、やつれている。締まった体で生き生きとフィールドを駆けていた頃の面影は遠ざかり、やせ細って生気のない顔をしていた。  目を見つめても、何故だか視線が合わない。 「…………あらた?」  ようやく返事をしてくれた湊は、力無い微笑を浮かべる。 「……新太が、ここにいるわけ……ないか」 「なっなに言ってんだよ! オレだよ! 新太だよ! 話がしたかったんだよ! お前に辛い思いさせちまったから……だからっ!」 「…………新太に、好きって言わなきゃ…………よかった」 「みな、と……」  呼吸が詰まる。ひぐらしが鳴き狂う中、彼の目から溢れた雫が頰に落ちて弾けた。  痛い。涙が刃のように痛い。  痛い。  ずし、と肩に湊の体が重くのしかかる。ぎゅっと強く抱きしめられたと思いきや、すぐに脱力した彼の身はずるずると地面へ落ちてしまった。
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