失せ人さがし    

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「みなと……? おい湊! おいっ! しっかりしろ! い、伊織! 救急車!」  動かない湊の体を揺すりながら叫ぶも、伊織は門の前に立ったまま無言で首を振る。 「な、なんで」  呆然としていると、「無理だ」と榊原が門から顔を出し、歩みながら呟いた。 「ここの奴らは、普通の病院にはかかれない。……そう決まってるんだ」 「なんなんだよ、それ……ならタクシーで」 「無理だ。……もう、無理なのさ」 「なんで」  榊原は無言でしゃがみこみ、湊の体を仰向けに倒す。その手首を持ち上げて触れてから、首を振った。 「お前さんも薄々気づいてるだろう。……もう、呼吸も脈もない。諦めた方がいい」 「今からでも病院に連れて行ったら」 「――――無理だ」  後ろから、伊織も声を上げてくる。  こちらへ歩み寄り、 「営業に回った奴らの半分以上は、過労で死ぬ。他の者も早かれ遅かれ、こうなる」 「なんでそんな、冷静なんだよ」 「言っただろう。『熱心で頭のいい信者たちを駒のように扱って、違法な労働をさせて成り立っているような組織だ』と。彼のように真面目で体力がありそうな者は営業に引き抜かれるんだ。365日、休みはない。ノルマを達成しなければ飯抜きだ。叱責や罰則をくらい、賃金は気持ち程度。……過労死するのも当然だ」 「なにを、言って……そんなの、許されるわけが」 「……情けとして、彼のご遺体は実家に返すよう、母上を説得する。キミはもう帰るんだ」 「そんなの」 「帰るんだよっ! 今すぐにっ!」  突然叫ばれ、新太はビクッと肩を上げる。  見かねたように立ち上がった榊原は、伊織の肩に触れながら首をふった。 「新太くん。……力になれなくて、すまなかった。あとはおじさんたちに任せて帰りな。キミは帰るべきだ、無関係なまま消えるべきだ」 「なんで二人はここに、居続けるんだよ。分かってんだろ。変だって、分かってんだろ」 「やらなきゃいけないことがあるのさ。おじさんにも、伊織くんにも」 「やらなきゃいけない、こと」  涙声で呟くと、榊原は「そうだ」とうなずく。新太の頭をわしゃわしゃと撫でながら、 「さぁ、この上着を脱いで帰った帰った。……辛い思いをさせて、すまんね。なるべく忘れるんだ、忘れるんだよ。……お前さんは、俺たちのようになっちゃいかんよ」
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