敵討ち    

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 ーーーー蜂玉園の始まりは、俺の曽祖母が突然変異の金目銀目の茶髪で生まれたことがきっかけらしい。  もともとはただの小さな寺だったんだ。養蜂場と少し仲が良いだけのね。金目銀目はもちろん、当時の日本では茶髪も珍しかったんだ。特異な容姿をした寺の1人娘を、周囲の人たちは『神様の生まれ変わりと』有り難がり拝むようになった。  その曽祖母の存在を、彼女の両親が商売に利用するようになった。小さくとも禅宗(ぜんしゅう)の教えを守っていた寺が、資金を援助した養蜂場と合併し胡散臭い信仰宗教団体に変わった。曽祖母の後にも金目銀目で茶髪の娘が代々生まれ、その血が続き、蜂玉園は比較的大きな組織となった。  女が代々継いできた組織だったから、末裔(まつえい)であり次期女王である俺は異端の存在だ。母上は女を生むことが出来なかったんだ。他の兄たちは黒目黒髪、俺だけがこの見た目を継いでしまってね。苦渋の決断だったとは思う。  と、軽く説明したけどね。蜂玉園の黒さはもう説明しただろう。俺が継がなければならない理由は、この外見が故。  他の兄たちは組織内で母の指示を受けながら仕事をしている、ハッキリ言って仲は悪い。兄たちは俺の立場がどうにも羨ましいらしんだ。全くもって気がしれないよ。  蜂玉園のおかしさは幼い頃から察していた。  けれど本格的に辛くなったのは、10歳の時だ。  仲の良かった友人が、殺されたんだ。母上の手によって。  親友だった。大切だったんだ、本当に。だがその友人は蜂玉園内では差別対象だったんだ。母上は、次期女王の俺が差別対象と仲が良かったのが気に食わなかったらしい。  どう殺されたのか、は……言えない。友人の名誉のために、ここは伏せさせてくれ。  あぁそうだね。キミにしては話が早くて助かるよ。  ーーーー俺は、母上を(あや)めたいと思っている。  敵討(かたきう)ち。そうだね、敵討ちになるね、これは。  己が逃れるだけじゃ晴らせないものがあるんだ。このまま逃げたって幸せにはなれない。  榊原さんもね、奥さんが蜂玉園に入ったまま行方知れずなんだ。死んでしまったのか、氏名を変えてしまったのか。信者リストを探っても分からなくてね。姿も見当たらない。  そうだね、榊原さんが信者リストの管理やその他諸々の役職をしているのはそのためだ。あぁ見えて非常に賢い人なんだ、あそこに染まらずに賢さを母上に買わせるのは相当なやり手だよ。  俺たちは、大切な人のために、やらなければならないことがある。  出来るならば、組織の悪事を世間に晒してからが望ましい。  自分たちが捕まるのは構わない。……もう、色々と手遅れだ。  納得してもらえたかな。とにかくキミにはもう関係のない話だ、今日を境に俺たちとは……蜂玉園とは縁を持たない方がいい。  ――――えっ、なんだって。  「オレも仇を討ちたい」って……何を言ってるんだ、キミは。
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