第一章 大安の出会い

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「牧野湊。中学から付き合いのある友達だ。こいつを探して欲しい。ここにいると思うから」 「なぜ彼が、我が蜂玉園にいると?」 「湊の母ちゃんから聞いたんだよ。ここの講演会に行ってから様子がおかしくなって、それから1ヶ月くらいしてから荷物持って出て行ったきり帰ってこねぇって。大学にも来てねぇし、他の奴に聞いても皆んな知らねぇって言うし」 「恋人の家に住み込んでいるとか、そういう話でもないのかい?」 「あいつに恋人は……いねぇよ」  なにやら曇った回答だ。その顔を見つめていると、彼は鋭い目つきで睨んでくる。 「ここ、人権ビョウドーだとか言ってるじゃねぇか。変わった奴でも受け入れるとか」 「そうだね。同性愛者、小児性愛者、性同一性障害、その他の知的障害、身体障害……ありとあらゆる世の『変わり者』と称されて理不尽な弊害を受けている彼らにも平等に恵まれた生活を与える。それが蜂玉園の方針であり」 「そんなこと言うから! ……アイツも、帰って、こなくなって」  机を叩いた彼だが、しばらくして「いや」とうつむいた。 「オレの、せいだ。アイツに、湊に『好き』って言われて……戸惑って、突っぱねて、そのせいで……アイツ、落ち込んで。だからここに」 (なるほど。牧野湊は同性愛者。目の前の彼、速水新太の恋人になり損ねて、蜂玉園へ……)  口元に手を当てながら目を伏せる。心が弱った者には、都合の良い口説き文句は蜜のように甘いのだ。 (特に蜂玉園は同性愛者や小児性愛者、性同一性障害に悩む者たちを引き入れることに力を入れている。その悩みに漬け込んだ売春で儲けている団体でもあるからだ)  その牧野湊という友人が他の信者に口説かれ、蜂玉園の男娼(だんしょう)に入れ込んでしまっている可能性は大いにあった。 (だが売春はこの別家では行われていない。本家の方だ。家を出て行ったきりとなると、本家に住み込んでいるだろう、けれど)  実のところ、ここは蜂玉園の本家でではない。分裂した別家、いわゆる支店のようなものだ。蜂玉園の核である本家は、ここよりも壮大な土地に存在している。
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