プロローグ

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プロローグ

「……ここか」  大学からの帰り道。デカデカとそびえ立つ建物を見上げながら、速水新太(はやみあらた)は呟いた。夏陽でじわじわと焼かれる肌から汗を一筋流しながら、短い黒髪を掻く。 「ここが、蜂玉園(ほうぎょくえん)……てっきりデケェ寺だと思ってたけど、シュウキョーの建物だったなんてな」  街から少し離れた田舎道にある施設、見てくれはただの巨大な寺。怪しげな信仰宗教団体の建物だと一発で見破るのは難しい。  入り口付近に貼ってある大きなポスターに目をやった。 「こいつが……八ノ宮伊織(はちのみやいおり)」  そこには茶髪に青と黄色のオッドアイを持つ端正な顔つきの青年が、和服姿で写っていた。  にこやかな笑顔のとなりには、団体名である「蜂玉園」の文字と共に「平等な人権、平等な生活を」となにやら立派な言葉が綴られている。  ハッ、と鼻で笑った。 「それっぽいこと言ってんじゃねぇよ」  手にしているチラシを握りしめ、歯をくいしばる。  ――――友達がこんな胡散臭いやつに洗脳されているなんて、たまったもんじゃない。  本日この建物で「蜂玉園」の講演会なるものが行われるそうだ。駅で配布されていたこのチラシさえ持っていれば、誰でもこの建物の中に入って八ノ宮伊織の公演を聞くことが出来るらしい。  ふうっと息を吐き、禍々しい門をくぐる。 「……その綺麗なツラ、一発殴ってやる」
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