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◇◇◇
大学病院はこぞって、巫女に精密検査を申し出た。
そして全院が断られた。健康に別段の問題はないことと、アイドルたるもの、医療行為といえど、みだりに他人に体を晒せない、との理由だった。
週刊誌は、採算が見合わないからと取りやめていた電車の中釣り広告まで復活させ、やれ「マンネリ打開のフェイクか?!」だの、「みこりんの下着事情に密着取材!」だのと、連日騒ぎ立てた。
SNSではポツリポツリと「#実は伸びてた人挙手」というハッシュタグが伸び始めた。
「よかった、うちの子だけじゃなかったんだ」
「ずっと言うのが怖かったけど、みこりんに勇気もらいました」
「俺が彼女を作らなかった理由がこれ」
尻尾民の存在が社会に認識されるにつれ、みこりんは多様性を体現するアイドルとして、ニュースコメンテイターやマイノリティーウィークのアンバサダーなど活躍の場を広げ、一躍時の人となった。
企業も新たなニーズに飛びついた。
尻尾用に穴の空いたパンツやスカートが売られると、誰も尻尾を隠さなくなった。
おしゃれな尻尾用リングやプロテクターがショップに並ぶと、非尻尾民の間でもフェイク尻尾がトレンドになった。
尻尾を電子マネー化した「尻尾マネー」が登場すると、その利便性から、整形外科手術で尻尾を生やそうとする者まで現れた。
尻尾ブームは海を越え、海外で開発された遺伝子治療型尾てい骨成長促進剤『オノビル』が新世界科学賞を受賞すると、尻尾の可能性追求は加速度的に進んだ。
やがて、人間拡張技術によりスマート尻尾が登場すると、第三の手と化した尻尾は社会的ステータスをさらに高め、就職や結婚をも左右する要因となった。
一部の専門家たちが、尻尾民から検出された未知の微生物や、尻尾を持つ親から子へと受け継がれる遺伝性疾患について警鐘を鳴らしたが、世間はそれらの警告を風評被害や陰謀論として蔑ろにした。
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