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島原消滅
パーティーの参加者、スタッフ全員が、フロアに集まっていた。
「みなさん。我々は警察庁祓魔課の者です。お話を伺いたいのですが」
まあ、腐っても元警視庁怪奇課。この手の事件は慣れていたと言える。
「銃で撃たれた被害者は、死亡を確認しました。身分証によると、佐々木龍一さん。56歳。駐車場には佐々木氏のベンツが停まっていました。招待状には、本人の名前と、同伴の奥さんの名前が。佐々木美穂さん、ですね?貴女――佐々木氏をご存知のはずですが」
言われた夫人は、得心がいかないといった表情で、こう応えた。
「確かに、私は佐々木美穂です。しかし、私はずっと、独り身です」
「息子さんが、いらっしゃるはずですが?」
ええ。佐々木美穂さんは言った。
「昔、結婚を約束した人物はいました。しかし、破談になったあとで、息子を妊娠していたことに気付きました。マダムは、1人で息子を育てられるよう、様々なご支援をいただいております。2度と、そのような話はしないでください。私にも、マダムにも迷惑です」
「なるほど。大変失礼しました」
視線の奥で、相棒が顎をしゃくっていた。
「少々、失礼します。他の方への聴取もありますので、お手数ですが、ここで待機をお願いします」
一礼して、廊下に引っ込んでいった。
おお。災難だったな島原。勘解由小路は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。
「よくあることだ。それより確かに、佐々木氏を知る人間がいたはずなのに」
「ああ。おかしなことが起きている。さっき、先に現着してた奴がいてな?ああ真琴の高校時代の――いやいいか。そいつに問い合わさせた。佐々木龍一の身分証だ。まあ都内にあった会社の社長らしくてな?全然違うオフィスになっていた。おや?ってなって、指輪にアクセスしたんだ。ああまただ。大学を卒業した事実も消えている。こんなことがあるのかな」
指輪。永遠の真理。ソロモンの指輪。
「よくは解らんが、あれは、察するに真実なのだろう?」
「ああまあ、あれは超巨大なデータベースの集合体だ。ああ、母親の腹から出た事実すら消えた。つまり、この世から、佐々木龍一の人生というか、存在自体が完全に消滅した。原理はよく知らんぞ?だが、指輪の情報すら消滅させるような、恐ろしい何かがあるようだ」
――それは。
その時、屋敷のどこからか、銃声が轟いた。
「小口径だ。多分22か20口径くらいの」
「勘解由小路!気を付けろ!」
そう言い残し、島原は走っていった。
「状況の確認もせんと、あいつは」
そこで、勘解由小路は、
「三田村さん。その後の手順は、解るな?」
僕悪魔に、何かを囁いた。
十数秒後、けたたましく銃声が轟き、場が、静寂に包まれた。
それは、何かの消滅と、終焉を意味していた。
タクシーが停まり、ゴスロリファッションに身を固めた、陰気な女が降りてきた。
神楽坂千鶴は、鼻息も荒く、携帯を取り出した。
「十条寺課長!現着しました!ああ今日はコミュだったのに!幾ら祓魔課が人手不足だからといって、休暇中の職員をこき使うようなブラック組織は――あ?あれ?」
その場で、神楽坂は倒れた。
「お、おい!君!」
さっき、上からの指示で被害者の裏取り捜査を行っていた、30代の刑事が、彼女を抱えていた。
「渡会係長!」
「大丈夫だ!過呼吸を起こしている!一応、救急車を待機させといてくれ!誰か!紙袋を!」
全身が、恐ろしい何かを感じていた。汗が止まらない。
この恐怖は何?白目を剥きながら、神楽坂はガタガタと震えていた。
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