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人妻拉致犯人は人妻
その日、川島書房に勤めていた島原志保は、妊娠4ヶ月ではあったが、何の問題もなく近所のスーパーでの買い出しを終えたところで、乱暴に道を塞いだ、キャデラックワン・ビーストに拉致されることとなった。
「真琴さん、今度は、どうしたの?」
まあ拉致されたのは事実だが、自ら乗り込んだ座席に座ってもいた。
「ああ志保さん。私が誰か、ご存知の様子で。本当によかった」
心から、ホッとした様子で、勘解由小路真琴は言った。
「知らない方が、よかった的な?」
「貴女は、私の最高のご友人ですよ。天草志保さん。川島書房の元編集者で、怪奇課時代の島原管理官と同棲されていました。長崎のヒルコ事件の末、今は島原管理官、今の祓魔課長と結婚し、可愛い娘さんに囲まれて日々を送っています。それに、間違いはありませんね?」
「勘解由小路さんなら、しばらくご無沙汰だな。妊娠すると女はイカモノ食いになるらしいが、大丈夫か?とか言いそうね?」
ああ!うっすら涙すら浮かべて、真琴は嘆息していた。
「降魔さんであれば、そういうことを言いかねないのですが、私が、4人の子供がいる、勘解由小路家のラブ蛇ちゃんであることを知っているんですね?ああ、よかった」
涙を流したので、ハンカチで涙を拭ってやった。
「ちょっと、ホントに何があったの?」
「尋常ならざることが起きています。我が身に起きた事柄を鑑みた、結論を言います」
真琴は、身を切るような痛みを飲み込んで、こう言った。
「降魔さんと、島原課長、祓魔課の最強コンビが」
――今、この世から、消滅したようです。
はい?志保は、そう言うよりなかった。
「今朝、降魔さんと子作りをしたあと、降魔さんは登庁なさいました。緑くんをあやしたり、学校に行った双子ちゃんや、莉里ちゃんを送り出したりしていたのですが、11時頃、ふと、嫌な感覚を覚えたのです」
「それって、私も感じたわ」
真琴は頷いた。
「その時、私は、緑くんのベッドに引き返したのです。すると、そこには、天狐モードのトキさんが、緑くんを抱いていたのです」
――貴女は――どなたか。
「ちょっとイラッとして、無言で緑くんを取り返そうとしたところ」
「お家待望の御子に何をなさるか?!興津!根来!この闖入者を捕らえよ!生死は問わず!」
「結果、家の全てのメイドに襲われました。鳴神さんは龍神だということを、忘れていまして、結果」
無惨に半壊した、旧勘解由小路邸から、1人出ていった真琴は、ガレージの残骸から、キャデラックワン・ビーストを発見した。
「リムジンを徴発し、出奔しました」
「道理で、リムジンが凹んでたのね?」
「鳴神さんを殴り飛ばした時、リムジンに突っ込んでいましたので」
相当な、戦闘行為をした人妻の姿があった。
「その後、色々調べて判明しました。まず、祓魔課に連絡すると、課長は十常寺さんでした。皇居護衛官だったはずの方だったので、思わず、否否否と叫びかけまして」
あー。真琴さんまで、そういうの言うようになったのね?
雪次君も、多分理解しそう。
「いよいよ、何かがおかしいと思った時、助手席に、彼女が。今、運転してくれていますが」
内窓が開いて、酷く美しい、黒いドレスを着た女が、ハンドルを握っていた。
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