人妻拉致犯人は人妻

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 志保さん、彼女は、真琴が言いかけ、志保は気付いた。 「この間は、お肉をどうも。三鷹さん、だっけ?」  ええ。島原の奥様。 「三鷹、猊下の(しもべ)悪魔、アミでございます。真琴奥様、発言をお許しいただけますか?」 「ええ。現状を、お伝えください」  はい。三鷹さんは、志保の目を見て言った。 「あの、前見なくて、平気?」  問題ありません。三鷹さんは即答した。 「(わたくし)は悪魔です。この目とて、かりそめでございますし」  あああ。後頭部に、目とか、あるの? 「島原の奥様。そう――島原様の」  あれ?この人、うちの雪次君に、何か?  そういえば、雪次君が言っていた。最近、勘解由小路の(しもべ)の見る目が、おかしい気がするんだ。毎日だぞ?気が付くと、机に♡のチョコレートとか、手作りのケーキとかが置いてあるんだ。食べていいものなのかな?  ああ。そういうこと?だったらごめんなさい。 「ええそう。雪次君の赤ちゃん妊娠中の、島原志保ですけど」  島原の部分を、思いっきり強調して言ってみた。  どうでもいいけど、今歯ぎしりしたのも、かりそめの歯なの? 「今、妙な空気になってますけど。三鷹さん、島原課長は、降魔さんの盟友にして、相棒とも言える間柄の方です。現状の事態をいたずらに妨げるなら、私は、貴女を罷免せざるを得ないのですが」  真琴が、モノクルに指をかけた。 「も、申し訳ございません!つい!」 「もういいから、雪次君に何が起きたか教えて?」 「それに関してご報告します。まず、私は志保さんに連絡しました。産休中と聞いていたので、ご自宅にかけたのですが、何故か、課長のお母様が出ました」 「――え?長崎の、お義母さんが?」  その話は聞いていなかった。  志保は、島原母とは折り合いは悪くないが、無断で家に上がるとは、不可解でもあった。 「真琴奥様に代わってお話します。本日11時頃、不可解な射殺事件が発生し、猊下と島原様は、揃って現場に向かわれ、そこで行方不明になっております。同時に、島原様と猊下の、祓魔課任官の事実も、警視庁の刑事としての任官も、大学卒業の事実すら、揃って消滅しております」 「嘘――でしょ?」 「公的な書類はもちろんのこと、母が子を生んだ事実すら、今はありません」 「そう。課長は、降魔さんと共に、その存在が地球から消えてしまったと、考えるよりありません。例えば、私は、今現在警視庁で働いていることになっています。恐らく、志保さんもその内」 「別の私が、会社にいるように――なるの?」 「つまり、降魔さんが存在しない世界では、当然、私が降魔さんの赤ちゃんを生んだ事実はありません。だから、恐らく緑くんは、トキさんに育てられているのでしょう。世界に対し、大規模な改変が行われているようです」 「世界の改変て。勘解由小路さんや、雪次君が存在しない世界になりかけているというの?だったら、この子は?それに、今、学校にいるはずの真帆は?」 「ええ。本来、その矛盾は、是正されているはずなのですが」 「それは、恐らく原因は猊下にあると愚考いたします」  三鷹さんが、また言った。 「恐らく、あの時、先に現場に向かったのは島原様でした。本来、猊下の(しもべ)である(わたくし)達は、流紫降様の(しもべ)となっているはずです。されど、(わたくし)の中には、幼い頃の猊下と、おままごとをした覚えがございます。上司に孕まされ、会社を去った元OLと、家賃の回収をしていた大家の息子の設定で。話はいよいよ盛り上がり、第5回、会社をクビにされて復縁を迫る上司、第6回社長の息子、第8回、近所のコンビニの店員などが入り乱れ、最終回、不義の子を出産し、3歳の猊下の女にされる(わたくし)の回の前に、おままごとは中断してしまいました」  改めて、嫌な3歳児ねえ。志保は思った。  ところで、真琴は三鷹さんを絞め殺そうと思っていた。 「この矛盾の存在。それは、敵の威の強さと、それに抗う猊下の威を示しています。(しもべ)を外れる直前、(わたくし)の耳に入った情報は、銃撃した相手の存在を、強制的に消去する弾丸の存在が、暗示されておりました。恐らく、島原様は撃たれたのでしょう。それで、島原様は消えようとしましたが、島原様の過去の消失が起これば、ご親友であった猊下の過去も一部消えます。そこで、猊下は何らかの手を打たれたのではないか。人の過去を消失させ得るならば、それは相当の力の持ち主です。魔女の力を感じます。奥様。容易に世界を創造、改変せしめる人物は、やはり、魔女ではないかと」 「――魔女。三鷹さん、今向かっている場所は」 「はい。(わたくし)は、女の情念の炎が、形をなした悪魔です。魔女とて女。オカルト女にまつわる事柄は、オカルト女にお任せください。昨今、巨大すぎる魔女の力を感知いたしました。調べると、とある女が、開いたというアンティークショップがございました。水晶堂。目指す魔女は、そちらに」  リムジンは、古臭い面持ちの、アンティークショップの前に停車した。  看板には、水晶堂と書かれていた。
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