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仮定的存在の城
うっすらと、島原は目を開いた。
「おう。目が覚めたか?」
「勘解由小路――俺は、う!」
「動くなって阿呆。太腿に盲管銃創がある。石山さん、治してやってくれ」
――う。長い嘴の面、ペスト医師の扮装の医師が、島原の傷から、銃弾を取り出していた。
「迂闊に走るなよ?傷口が開く」
「まあ、滅多にないことだし、忠告には従おう。ところで――ここは?」
あああ。勘解由小路は言った。
「仮定的存在の城だかだそうだ。お前、あんな簡単に撃たれるなよ。静也ライルとかなら、平然と敵を倒して事件解決だったのに」
「あんな非常識な連中と一緒にするな!しかし、部屋に入った瞬間、物陰から撃たれた。つまり、俺は、消えたのか?この世から」
「まあ、そうなりそうだったんでな?俺が、ちょいと頑張った。それで、気づいたらここにいた」
「仮定的――存在の城と言ったな?」
「おう。消失に対するカウンターとしては、まあこれが限界だった。あああ、まさか、俺にこんな真似が出来るとは驚きだったがな?ここは要するに、存在と非存在の間の空間だ。銃弾について考えていた。多分、これは、銃弾を生み出した誰かの、果のない消滅願望がその内にある。幸い、ここには周囲にいた全ての人間を引っ張り込んでるっぽいから、話を聞きに行こう。消失までそんなに時間がないが」
島原は立ち上がった。
建築様式も不確かな、不条理極まりない空間の先に、果の見えない廊下と、無数の扉があった。
島原は、意を決して、勘解由小路について行った。
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