2、守るためにつく悲しき嘘【side鏑木綾人】

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 マンションの自室で資料を読んでいた私は、パソコン作業をする、弟で秘書の宏哉(ひろや)に話しかけられた。 「……社長は明日、お休みですよね」 「ああ。そうだけど」  顔を上げて宏哉の方を向くが、彼はこちらを見向きもせず、タイピングを続ける。 「明日は何をなさるのですか?」 「家でゆっくりしようと考えてるけど」  そう返しながら私は、明日言う台詞を考えていた。  実は明日、婚約者の真奈(まな)がここに来てくれることになっている。久々にお互い休みになったため、私の家でゆっくりしようと話になったのだ。だがそこで私は、一世一代のプロポーズをしようと決めていた。  寝室の方に目を向ける。その部屋のタンスには指輪が入っている。 「社長。終わりました」  考え事をしていると、私の側に宏哉が立っていた。 「ああ、すまない。お疲れ」 「いえ。他に仕事はありますか?」  表情は変わらず淡々と聞いてくる。もう少し愛嬌があればなと思いながら、私は首を横に振った。 「ないよ。ありがとう」  と、微笑みながら言っても、宏哉はニコリともしない。まあ、私のことを嫌っているから仕方ないのだが。 「かしこまりました。では失礼します」 「ああ、明日は私の代わりによろしくな」  明日は、宏哉が業務を行ってくれることになっている。 「はい。社長も明日はゆっくりとお過ごしください」  そこで宏哉は笑顔を見せた。久しぶりに見た、弟の笑顔だった。
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