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マンションの自室で資料を読んでいた私は、パソコン作業をする、弟で秘書の宏哉に話しかけられた。
「……社長は明日、お休みですよね」
「ああ。そうだけど」
顔を上げて宏哉の方を向くが、彼はこちらを見向きもせず、タイピングを続ける。
「明日は何をなさるのですか?」
「家でゆっくりしようと考えてるけど」
そう返しながら私は、明日言う台詞を考えていた。
実は明日、婚約者の真奈がここに来てくれることになっている。久々にお互い休みになったため、私の家でゆっくりしようと話になったのだ。だがそこで私は、一世一代のプロポーズをしようと決めていた。
寝室の方に目を向ける。その部屋のタンスには指輪が入っている。
「社長。終わりました」
考え事をしていると、私の側に宏哉が立っていた。
「ああ、すまない。お疲れ」
「いえ。他に仕事はありますか?」
表情は変わらず淡々と聞いてくる。もう少し愛嬌があればなと思いながら、私は首を横に振った。
「ないよ。ありがとう」
と、微笑みながら言っても、宏哉はニコリともしない。まあ、私のことを嫌っているから仕方ないのだが。
「かしこまりました。では失礼します」
「ああ、明日は私の代わりによろしくな」
明日は、宏哉が業務を行ってくれることになっている。
「はい。社長も明日はゆっくりとお過ごしください」
そこで宏哉は笑顔を見せた。久しぶりに見た、弟の笑顔だった。
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