2、守るためにつく悲しき嘘【side鏑木綾人】

6/6
前へ
/28ページ
次へ
 その後、宏哉の部屋に泥棒が入ったと、田邊さんたちが私のところにやって来た。そこから事件の進展は早かった。  宏哉の部屋に刃物の購入履歴が残っていたこと、そしてそれを購入したことを認めたため逮捕したということが、戻ってきた新藤さんから聞かされた。  全てが終わったが、ここから大変なことになるだろう。どこから手をつけようと頭を悩ませていると、新藤さんから声をかけられた。 「秘書が逮捕されて、綾人さんの会社は窮地に追い込まれることと思います。ですが、その苦境を乗り越えることが出来ると私は思っています」  そう言って、新藤さんと高谷さんは頭を下げて出ていった。  一人取り残された私は考えに耽る。苦境を乗り越えることが出来る、か。  簡単に乗り越えることができないぐらいに経営が傾くことは分かっている。多くの社員は会社を辞めるだろう。だがもし、私を信頼して残ってくれる社員がいたら、彼たちのために私は動き回ろう。そう心に決めて私は立ち上がった。  数日後、私は新藤さんに連絡をした。新藤さんから貰った名刺に電話番号が載っていたため、私は勇気を出して電話をかけた。本人が出てくれることを願いながら、コール音を聞いていた。 『はい。探偵事務所の新藤結希です』  本人が出てくれて安心しながら名を名乗った。 「突然のお電話失礼します。鏑木綾人です。先日はお世話になりました」 『ああ、鏑木さん。どうしました?』 「新藤さんに救っていただいたお礼がしたいと思っていまして。なにかご要望はありますか?例えば……、謝礼金はどうでしょうか?言い値でお支払いします」 『いえ。それより、一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?』 「ええ。何でも仰ってください」 『では、あのホテルで飲んだ紅茶を送ってもらえますか?あの味が忘れられなくて、また飲みたいなーってずっと思っていたんです』 「紅茶ですか。それでよければすぐにお送りしますよ」  そう答えると、電話越しでも分かるぐらい彼女はハイテンションで喜んだ。 『本当ですか!お金はいらないので、それをお願いします!住所は名刺の裏に書いているので!』  そして、電話を切るまで何度もお礼を言われた。私は、こちらこそありがとうと言って電話を切った。 2、守るためにつく悲しき嘘【side鏑木綾人】〜完〜
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加