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【side津雲明日香】
ある日の午後。わたしは待ち合わせ場所のカフェに向かって歩いていた。
そして到着して周りを見渡すと、奥の席で手を振る人物がいた。わたしはそこに向かい声を掛ける。
「こんにちは。新藤さん」
「津雲さん、こんにちは。急に呼び出してすみません」
「いえ。今日は特に予定がなかったので」
わたしは、そう返しながら向かいの席に座った。そして、やってきた店員さんにコーヒーを頼んだ。
店員さんがいなくなると、新藤さんはカバンをゴソゴソし始めた。早速わたしを呼んだ本題に入るようだ。
「知り合いの警察に頼んで返してもらいました。これは津雲さんのものですから」
そう言って新藤さんは、テーブルの上にその物乗せてわたしの方へ滑らせた。
わたしはそれを手に取る。手にフィットする、そのひんやりした感触に懐かしさを覚え、久しぶりに友人に出会えたような気分になった。
新藤さんは頬杖をついて、そんなわたしの様子をじっと見つめていた。
「よかったですね。小型カメラが戻ってきて」
「はい。わたしにとっては大切な商売道具だったので」
よく見るとカメラの側面には傷がついている。
それを見つけたわたしは、あのときの出来事を思い出してしまった。
あの日。わたしが研究の資料を小型カメラでデータを撮っていると揉める声が聞こえ、その後小型カメラを落としてしまったときのこと。
「や、安岡さん!大丈夫ですか!?」
安岡さんが胸を刺されたとき、わたしは駆け寄ってそう訊いた。だが彼からの返事はなく、苦しそうな呼吸を繰り返していた。
「おい、今は警察呼ぶなよ。というか、呼ばれて立ち位置が危ないのはお前の方か」
わたしの後ろに立って様子を見ていた原山は、わたしを上から見おろして言った。
そんな彼の足元に、わたしの小型カメラが落ちていることに気づく。取りに行こうとしたが、その前に原山がその存在に気づき、彼はカメラの上に足を置いた。
「これ、お前の大事な物か?こんな物落とすなんてマヌケだな」
そして原山はカメラを踏む足に力を込めた。
「やめて!」
簡単に壊れるものではないけど、力を込められると壊れてしまう。
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