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【side輝】
結希と千紘さんに、メイクや衣装を用意されて女装姿になった俺は、結希が運転する車の後ろで、周りから見えないように出来るだけ低めに屈んでいた。
「なんでそんなに小さくなるの。ぼくの力作を見てもらえないのが残念なんだけどー」
「というか、後部座席なんだから見られる心配ないって。そうやって前屈みの方が見えると思うけど」
結希の言葉に、俺は慌てて背もたれに背中をつけた。
「何でそこまでして見られたくないの?」
「どこで誰が見てるか分からないだろ。あと、今回だけだからな。こうやってメイクするのは」
どこで誰がこの辺りをうろついているか分からない。冬馬と会ったりしたら、彼はびっくりしたあと、指差して笑ってくるのが想像できる。
「残念だなー。これからもじゃんじゃんメイクして、潜入捜査させようと思ったのに」
俺はとんでもないことを言った千紘さんを無言で睨みつけた。
「怖っ。美人に睨まれたら迫力あるわー」
笑い声を上げる千紘さんと、彼を睨み続ける俺、そして苦笑いの結希。三者三様の表情を浮かべる俺たちを乗せた車は、無事に病院の駐車場に到着した。
その後、こちらが思っていたよりも早く原山が出てきて、俺は急いで車から飛び出した。そして三階に彼がいるらしく、俺はエレベーター前まで移動した。
待っている間、病院内の人たち全員から目を向けられる。早く降りてきてくれと願いながらエレベーターのランプを見つめる。やがて一階に着くと、白衣を着た男が出てくる。
千紘さんのメイクの腕がどのぐらいか気になった俺は、少し微笑んで会釈してみた。すると白衣の男は顔を真っ赤にして俺を見つめてきた。このメイクの威力が相当なものだということは分かった。
俺はエレベーターに乗り、三階を押す。そして閉ボタンに触れたそのときだった。
「待ってくださーい!乗ります乗りますー!」
大きく手を振りながら、若い男が駆け込んで乗ってきた。それと同時に扉が閉まる。俺は駆け込んできた人物に見覚えがあった。
「あれ?風谷くん、だよね?」
エレベーターに入ってきた彼は、俺たちの協力者、風谷朝陽くんだった。
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