3、真の正義は【複数視点】

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「はい、そうです。よかった。人違いだったらどうしようかと……って、すごっ」  下を向いていた風谷くんは、途中で顔を上げて俺を見た瞬間、目を見開いてそう言った。 「えーと、高谷さんでいいんですよね?」 「ああ。俺だよ」  苦笑いしながら答える。風谷くんは俺をじっと見たあと、何かを思い出したのか、はっとしてカバンをゴソゴソし始めた。 「あ、そうだ。新藤さんから言われたものを用意して持ってきたんです。これを高谷さんに」  そして彼がカバンから出したのは、数冊の本と、クリアファイルに挟まれた数枚の紙。俺は受け取ってパラパラと紙を捲る。 「……何だこれ?」 「僕が実際に大学で使っている、IT関連のレポートです。原山って人はIT系なんですよね?これ見たら、更に原山からの好感度がアップしますよ」 「俺って、大学生設定なのか?」  というか、もし原山からIT系の話題を振られても答えられないのだが。……そうか、黙っていればいいのか。曖昧に笑って乗り切ってやろうと心に決めた。  そう決意したと同時に、エレベーターが三階に到着した。 「じゃあ僕はここで。頑張ってくださいね」  風谷くんはにっこり微笑んで先に出ていった。俺もあとに続いて出て立ち止まる。原山はどこにいるんだ?俺の疑問に、結希がイヤホン越しに答えてくれた。 『輝から見て右側に原山がいる。私、もう行くから気を引いてね』 「はいはい」  エレベーターを出ると、目の前はT字路になっている。俺は曲がり角から顔だけ出して、原山の姿を探す。だが彼の姿はない。 「……おい、いないぞ。どこにいるんだよ」  俺の抗議に答えたのは千紘さんだった。 『えっとねー。今、輝が見てる廊下を真っすぐ歩いて、更に右に曲がったらいるよ。何か資料?みたいなもの見てるから、ぶつかるチャンスだよ』  更に曲がるのか。そうならそうと言ってほしかった。そして千紘さんの話は続く。 『あー、そうそう。どれだけ美人に変身しても骨格は誤魔化せないから、結希のマフラーで口元覆ってね』  口に当たるとか言っている場合ではなくなったということだ。俺は口元まで引き上げ、早足で廊下を歩いた。
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