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「おい、冬馬遅えぞ!しっかり走れ!」
このグループのリーダーはそう言って、僕の方を振り返る。その彼のかなり先で逃げている全身黒ずくめの男は、僕の友人の高谷輝だ。
「ここで輝を見失ったら冬馬お前、責任取ってくれるんだろうなぁ!」
リーダーは、僕と輝の仲がいいことを知っている。僕が早く走らないことで、時間稼ぎをしていると思っているのだろう。まあ実際その通りなんだけど。
僕が黙っていると、リーダーはまた前を向いてぼそっと呟いた。
「それにしてもあいつ、何でこんなことしたんだろうな。橘さんにはお世話になってるのによ」
と、リーダーは僕をちらっと見ながら言う。だが輝がこんな行動を起こした理由は僕も知らない。
今日、五時ぐらいだったか。輝は急にジャケットを羽織ると、拳銃を手に部屋を出ていった。同部屋だった僕は気になって後をついていくと、彼は大きなカバンを掴んで、金庫を開けると、カバンにお金をどんどん詰め込んでいった。
「輝!お前、何やってんだよ!」
僕が輝の背中に声をかけると、彼は驚いた顔で僕を見た。だが彼はまた前を向いて、お金を詰め続けた。そして入り切らなくなると、チャックを閉めて立ち上がった。
「……俺はもう限界なんだよ」
輝は、僕の横をすり抜けながらそう言うと走り始めた。その後すぐリーダーがやってきて、止めなかった僕を怒鳴った後、僕に拳銃を握らせついてくるように指示した。そのときリーダーは僕にこう言った。
「お前が輝を仕留めろ」
さっきも言ったが、リーダーは僕と輝の仲がいいことを知っている。知っていて、こんなことを言ったのだ。拒否すれば僕が今、この場で消されてしまう。
「……分かりました」
そう答えると、リーダーはニヤリと笑った。
僕は輝を撃ちたくない。ならば僕が出来ることは、ゆっくり走って輝が逃げ切ることだ。そうすれば、僕も輝も何とか命は助かるはずだから。
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