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『いい感じ。あ、最後の方は小走りで!』
千紘さんの指示に従いながら、歩くペースを変えていく。そして曲がり角が近づくと、走れという指示が飛んだ。俺は本や紙を持ちながら走って、そのまま曲がる。すると視界に一人の男が現れ、俺はその男と思いっきりぶつかった。
「……っ!」
声が出そうになったが、そこはぐっと堪えた。そして俺が持っていた紙や本が見事に散らばる。チラリとぶつかった相手を見ると、原山が頭を抱えてこちらを睨みつけていた。
「チッ」
……今、俺を見て舌打ちをしたよな。思っていたことと違うんだが。
「……すみません」
俺は小声で謝りながら、散らばった紙を拾っていく。声がかすれてハスキーボイスみたいになったが、原山から好意を持たれないならもういいだろうと思い、俺は拾うことに専念した。
「いや……。こちらこそ、すまない」
原山から急にそう声をかけられ、俺は驚いて顔を上げる。そして彼とバッチリ目が合う。その瞬間、原山が慌て出した。
「あ、本当に申し訳ない!怪我はないか!?」
廊下に響き渡るほどの大声で、原山は俺のことを気づかい始めた。
「はい……」
急に人格が変わった原山に驚きながら答える。だが俺はそのまま紙を拾い続けた。すると原山は一枚拾って、じっとそのレポートを見ていた。
「君……。IT系の講義を受けているのか?」
やっぱり聞いてきたな。俺は曖昧に笑って誤魔化す。
「素晴らしいな。それに、君みたいな美しい人がITに精通していることは本当に嬉しいことだ」
俺は笑みを浮かべ続けているが、原山からの言葉に頬が引きつる。
そんな俺の表情に気づかない原山はなんと、俺の手を握ってきた。
「ひっ!」
「このレポートを見ると、君はデータベース管理が苦手のようだ。君のために俺が特別に教えてやろう。大学一コマ六千円ほどかかるが、君なら千円で構わない」
授業料とるんかい!と、思わずツッコミそうになった。あと手を離してほしい。
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