3、真の正義は【複数視点】

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『いい感じ。あ、最後の方は小走りで!』  千紘さんの指示に従いながら、歩くペースを変えていく。そして曲がり角が近づくと、走れという指示が飛んだ。俺は本や紙を持ちながら走って、そのまま曲がる。すると視界に一人の男が現れ、俺はその男と思いっきりぶつかった。 「……っ!」  声が出そうになったが、そこはぐっと堪えた。そして俺が持っていた紙や本が見事に散らばる。チラリとぶつかった相手を見ると、原山が頭を抱えてこちらを睨みつけていた。 「チッ」  ……今、俺を見て舌打ちをしたよな。思っていたことと違うんだが。 「……すみません」  俺は小声で謝りながら、散らばった紙を拾っていく。声がかすれてハスキーボイスみたいになったが、原山から好意を持たれないならもういいだろうと思い、俺は拾うことに専念した。 「いや……。こちらこそ、すまない」  原山から急にそう声をかけられ、俺は驚いて顔を上げる。そして彼とバッチリ目が合う。その瞬間、原山が慌て出した。 「あ、本当に申し訳ない!怪我はないか!?」  廊下に響き渡るほどの大声で、原山は俺のことを気づかい始めた。 「はい……」  急に人格が変わった原山に驚きながら答える。だが俺はそのまま紙を拾い続けた。すると原山は一枚拾って、じっとそのレポートを見ていた。 「君……。IT系の講義を受けているのか?」  やっぱり聞いてきたな。俺は曖昧に笑って誤魔化す。 「素晴らしいな。それに、君みたいな美しい人がITに精通していることは本当に嬉しいことだ」  俺は笑みを浮かべ続けているが、原山からの言葉に頬が引きつる。  そんな俺の表情に気づかない原山はなんと、俺の手を握ってきた。 「ひっ!」 「このレポートを見ると、君はデータベース管理が苦手のようだ。君のために俺が特別に教えてやろう。大学一コマ六千円ほどかかるが、君なら千円で構わない」  授業料とるんかい!と、思わずツッコミそうになった。あと手を離してほしい。
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