3、真の正義は【複数視点】

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 イヤホンから千紘さんが大爆笑する声が聞こえる。それを聞きながら俺は手を振り払い、首を横に振った。 「結構です」  自分でもびっくりするぐらいの冷たい声で断り、紙を拾うスピードを上げた。実は、結希と風谷くんの方で終わったような話が出てきたからだ。 「お、怒らせるようなこと言ったかな。でも君のような人が活躍してくれたら」 「興味ないです。失礼します」  俺は原山の手から紙を奪って早足で離れた。そして角を曲がると、壁に背中をつけて結希たちの状況を聞く。  聞いていると、千紘さんにデータを送っただけで、まだ完全に仕事は終わっていなかったのだ。  また原山のところに戻ったほうがいいのだろうかと焦るが、結希と千紘さんの会話を聞くに、何とか大丈夫そうだということが分かった。ただ結希は原山と鉢合わせてしまうのではと不安になる。だが、 『こっちは脱出方法考えてるから大丈夫』  と、自信満々に答えた。そして俺に先に駐車場に戻るよう伝えたあと、木に飛び移って結希は脱出した。どこまでもアクティブな人だと思った。  次の日。原山の事件がニュースで取り上げられていた。その間は極力家から出ないというのが、この探偵事務所のルールとなっている。下手に動いて目をつけられないようにするためらしい。  だが俺は外に出る方法を考えていた。というのも昨日、アクティブな脱出に関して結希と千紘さんが揉めたからだ。 「おはよー」  結希が起きてきて、先に起きていた俺たちに挨拶した。出かけるタイミングを逃した俺は、紅茶を淹れると理由をつけキッチンに逃げる。  キッチンから様子を見ていると、二人は普通に談笑している。俺は驚きつつ紅茶を淹れてソファに座った。 「……何の話してたんだ?」 「輝の変装の話。よかったよねーって。……そうだ、肌かぶれたりしてない?何かあったら言ってね。私オススメの薬品あるから」  結希の言葉に千紘さんは大きく頷いていた。昨日の揉め事がなかったかのように普通に過ごしている。  あとから知るが、昨日あったことは次の日に持ち越さないのが二人のスタイルらしい。引きずっていたのが俺だけだったようだ。俺はさっぱりした性格の二人を見習いたいと思った。 【side輝】〜完〜
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