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今日は嫌なことが起こる予感がする。
朝、起床してカーテンを開け、どんよりとした空を見て僕はそう思った。
そして僕のその予感は、かなりの確率で当たってしまう。だが、何をどうすればいいのかは全く分からないから困った能力だ。
「……何も起こらないことを願うしかないな」
僕はそう呟いて、出社するためにスーツに着替えた。
出社すると、捜査一課と書かれたプレートに向かい自分のデスクに座る。隣をチラリと見るが、その席の主の勝呂がまだ来ていなかった。
「勝呂はまだなのか……」
僕の呟きに、先輩が答える。
「聞いてないのか?勝呂は休みがほしいって言ってたから、今日は来ないぞ」
「そうなんですか?」
「まあ今日はあいつのお兄さんの命日だろ?墓参りにでも行くんじゃないか?」
勝呂から聞いた話では、お兄さんは何者かに殺害されたと言っていた。その殺人犯を逮捕するために刑事になったらしいのだが……。
「辛いだろうな。まだ犯人捕まってないだろ?怒りをぶつける相手が見つからないってのはきついよな。田邊、あいつが暴走しないようにしっかり支えてやれよ」
そう言って先輩は僕の肩を叩いて離れていった。周りに誰もいないことを確認すると、大きく息を吐いた。
先輩には言っていないが、勝呂は少し前に暴走したことがある。
一年前、勝呂は信号待ちをしていた男性の背中を押して事故に遭わせ、押された男性は今現在も病院で眠り続けている。
何故そんなことをしたのか理由は詳しく知らない。だがこの事件で僕は、結希が隠蔽工作をする場面を見ることとなった。彼女は防犯カメラを細工し、勝呂が映る映像を全て削除したのだ。
その後、結希は気を失って倒れ、目が覚めたときには事件の記憶を失っていた。医師の判断は精神的ショックによる記憶障害だと言っていた。
勝呂の暴走は許されるものではない。だが僕は彼女のことを放っておくことが出来なかった。
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