最終章、全ては大切な人のために【side田邊雅人】

2/7
前へ
/28ページ
次へ
 今日は嫌なことが起こる予感がする。  朝、起床してカーテンを開け、どんよりとした空を見て僕はそう思った。  そして僕のその予感は、かなりの確率で当たってしまう。だが、何をどうすればいいのかは全く分からないから困った能力だ。 「……何も起こらないことを願うしかないな」  僕はそう呟いて、出社するためにスーツに着替えた。  出社すると、捜査一課と書かれたプレートに向かい自分のデスクに座る。隣をチラリと見るが、その席の主の勝呂(すぐろ)がまだ来ていなかった。 「勝呂はまだなのか……」  僕の呟きに、先輩が答える。 「聞いてないのか?勝呂は休みがほしいって言ってたから、今日は来ないぞ」 「そうなんですか?」 「まあ今日はあいつのお兄さんの命日だろ?墓参りにでも行くんじゃないか?」  勝呂から聞いた話では、お兄さんは何者かに殺害されたと言っていた。その殺人犯を逮捕するために刑事になったらしいのだが……。 「辛いだろうな。まだ犯人捕まってないだろ?怒りをぶつける相手が見つからないってのはきついよな。田邊、あいつが暴走しないようにしっかり支えてやれよ」  そう言って先輩は僕の肩を叩いて離れていった。周りに誰もいないことを確認すると、大きく息を吐いた。  先輩には言っていないが、勝呂は少し前に暴走したことがある。  一年前、勝呂は信号待ちをしていた男性の背中を押して事故に遭わせ、押された男性は今現在も病院で眠り続けている。  何故そんなことをしたのか理由は詳しく知らない。だがこの事件で僕は、結希が隠蔽工作をする場面を見ることとなった。彼女は防犯カメラを細工し、勝呂が映る映像を全て削除したのだ。  その後、結希は気を失って倒れ、目が覚めたときには事件の記憶を失っていた。医師の判断は精神的ショックによる記憶障害だと言っていた。  勝呂の暴走は許されるものではない。だが僕は彼女のことを放っておくことが出来なかった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加