最終章、全ては大切な人のために【side田邊雅人】

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「……い。おい田邊、聞いてるのか!」  過去のことを思い返していると、先輩に肩を揺さぶられ、僕は我に返った。 「あ、すみません。何ですか?」 「近くの住宅で火災があったらしい。もう何人かは現場に向かってる。俺たちも行くぞ」 「はい」  僕はコートを羽織って先輩を追いかけた。  現場に到着すると、辺りは煙に包まれていた。そして未だに炎が出ているのだが、その燃え方が尋常ではない。 「これ、事故ですか?」 「どうだろう。これは放火の線もあり得そうだな」 「ですよね……」  先輩と話していると、一人の救急隊員が近づいてきて、先輩と話し合っていた。傍で話を聞いていると、どうやらここは、橘がボスだった組の組員が住んでいたところだったらしい。  ということは、ここを狙った放火なのだろうか。火の勢いは強く少し後ろに下がる。すると靴に何かが当たり地面を見た。  僕は手袋をして、その物を拾いあげる。吊り下げられるストラップがついている。ということは、これはキーホルダーか? 「謎だ……」  僕はこっそりと現場から離れ、結希に電話をかけた。 『……なに?』  結希は何故か機嫌が悪そうだったが、僕はお構いなしに話した。 「僕だ。今、高谷くんたちがいた組の家で火災があってな。で、ちょっと結希に聞きたいことがあって電話したんだが……。来られそうか?」 『分かった。行く』  結希は即答してそう答えた。  僕はポケットにキーホルダーを突っ込んだ。本当は先輩に伝えないといけない物なのだが、これは先に結希に見せたほうがいいと思ったからだ。  そして電話を切って何気なく周囲を見渡すと、勝呂らしき人物を見かけた。その人物は燃えている建物をチラリと見ると、現場から去っていった。  追いかけて声をかけようとしたが、その前に先輩に呼ばれる。僕はさっきの人物を気にしながら先輩のところへ戻った。
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