1、始まりはビルの屋上から【side冬馬】

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 全て倒し終えると、女性は僕をチラリと見たあと南京錠に触れた。鍵がかかっていたが、彼女がポケットから何かを取り出すと、ものの数秒で開けてしまった。そして階段を駆け上がっていった。  あの女性は何者なんだ……。そんな疑問を最後に、僕は意識を失った。  どのくらい時間が経ったのだろう。僕が意識を取り戻したときは、辺りは真っ暗だった。すると足音がして、僕の近くに何かが置かれた。少し顔を上げる。カバンと……お札?更に顔を上げると、輝とさっきの女性が並んで歩いていた。意味が分からなかったが、僕は腕に力を入れて立ち上がった。 「……輝!」  僕の声に輝が振り返る。女性は足を止めずに曲がり角を曲がった。 「お前……。本当に裏切ったのか?こんなことをしたらお前は」 「俺はもう組には戻らない。……じゃあな」  輝は決意した目をしていた。だが顔を逸らす前の表情は苦しげに見えた。何でお前がそんな顔するだよ……。そう思っている間に輝は去っていった。  輝たちがいなくなると、騒ぎ声が大通り側から聞こえた。壁に手をつき大通りに出ると、道路には大量のお札がばらまかれていた。それを、多くの人が夢中で拾っている。この大量のお札ってまさか……。  呆然とこの光景を見ていると、誰かが僕の肩をぽんと叩いた。驚いて振り返ると、金髪の女性が立っていた。 「冬馬くんだよね。ゆ……、えっと、探偵から君を救う言葉を伝えに来ました」 「……はい?」  意味不明。僕がぽかんとしていると、その女性は僕の背中を押してビル下へと戻した。 「輝って人、君の友達でしょ?彼が冬馬も救いたいって依頼したらしくてね。だから今から言う言葉を、これから来る警察に言ってほしいんだ」 「輝が……」 「言ってくれる?君も捕まったら彼、悲しむんじゃないかな」  輝と僕は似た境遇で組に入った。色んなことを話した仲なのに、今回のことは何一つ知らせてくれなかった。 「分かりました。僕を助けてください。それに輝に会ったら、一言文句を言ってやりたいので」
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