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田邊さんは、無線で警察の人とやり取りしながら運転していた。しばらく道路を走っていると、歩道で大きく手を振っている人物がいることに気づいた。田邊さんはその人物の前に車を止めた。
車に乗り込んできたのは、僕にばらまいたと言うようにと伝えた金髪の女性だった。その女性は僕がいることに気づくと、優しく微笑んでくれた。
「あ、冬馬くんがいるってことは、ぼくが言ったことを伝えたんだね」
「ああ、ばらまいたって言ってたよ」
この人が新藤さんだろうか。僕は深く頭を下げた。
「新藤さん。本当にありがとうございました」
お礼を言って顔を上げると、その女性はキョトンとした顔をしたあと、声を上げて笑い始めた。
「違うよ。ぼくは結希じゃないから!こんな派手な格好しないし」
じゃあ誰なのだろうか。そう訊こうとしたが、田邊さんに遮られた。
「自己紹介は後でいいだろ。今は結希たちが格闘してる場所を案内してくれ」
謎の金髪の女性は、耳に手をあてて何かを聞いていた。よく見ると、イヤホンらしきものが装着されている。
「格闘は終わったみたいだよ。場所は路地裏の──」
その後、女性の案内で格闘が行われた場所に到着した。地面には四人の男が転がっていた。
「冬馬……!」
輝が一目散に駆け寄ってきた。そして、僕だけに聞こえる声量でよかったと呟いた。僕は彼から目を逸らしてしまう。
そして、田邊さんと小声で会話をしていた女性の一言で、僕たちは居酒屋へと向かった。だが向かう前に、僕は田邊さんに呼び止められた。
「冬馬くん。今から君は自分で探して、新しい人生を歩んでいかなければならない。もう間違った道に進むなよ。君はまだまだこれからだ。いい人生の第二章に進むことを期待してる」
それだけ言うと、田邊さんは去っていった。僕はその背中に深く頭を下げた。
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