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2.元カレ
「薫子ちゃーん? ラーメン伸びちゃうよ?」
「……え?」
私にラーメンが伸びると声を掛けて来たのは、さっきの電話の相手で元カレの和人、通称かず君。
「俺の事呼び出しておいて、心ここにあらずって酷くない?」
「ごめん……つい、先の事を考えると憂鬱で」
「青木さん海外出張なんだろう? 商社のエリートってやっぱ俺みたいなプータローとは違うよな」
笑って自虐ネタをぶっ込んで来るかず君は、ミュージシャンを目指してバイトをしながら音楽活動をしている。
「何も結婚式の直前に長期の海外出張になんて行かなくたっていいじゃない? ねぇ?」
「俺にはそこん所よく分からないけどさぁ、こういう話をするならラーメン屋より居酒屋じゃね?」
「悪かったわね。お腹が空いていたのよ」
「じゃぁ、ラーメンが伸びる前にまず食べなさいって。それから飲みに行こ?」
「分かったわよ……」
かず君とは別れてからも腐れ縁みたく飲み仲間をしている。元々優しい性格のかず君だから、私が今の婚約者の話をしても広い心で受け入れてくれた。
そんな優しいかず君の事は好きだったけど、三十代も近付いてきて、私はこのまま夢ばかり見ているかず君と一緒に居る事に恐怖を覚えた。私だって、人並みに結婚して幸せな家庭を作りたかったから。
そんな時、出来心で参加したお見合いパーティーで出会ったのが昌輝だった。
彼は総合商社に勤務するエリートで二つ年上の三十歳。スラッとした体躯に高そうなオーダーメイドのスーツを着ている、センスに溢れた人だった。
そんな彼から声を掛けられて、私は有頂天になって、すぐにかず君を捨てた。でも、かず君は怒らなかった。ただ、「幸せになれよ」と言ってくれた。
あれから一年、私は今もかず君の優しさに甘えている。
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