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4.真相
翌朝目が覚めると、酷く頭が痛かった。寝落ちするまでずっと泣いていたからだろう。
「でも、会社……行かなきゃ……って……遅延?」
テレビを付けると、いつも使っている電車の路線が人身事故で止まっていた。
「じゃぁ、隣町の駅まで自転車で行ってそれで電車に乗るしかないわね」
私は隣町にある別路線の電車で会社に行く事にした。自転車で通る道はほぼ住宅街の中だ。
私が住んでいる街も、隣の街も、東京に働きに行く人たちのベッドタウンだった。川ひとつ隔てて東京ではなくなるだけで、同じお金を出せばそこそこの広さの庭付き一戸建てを手に入れる事が出来るから、とても人気のある街だった。
私は痛む頭を鎮痛剤で散らして自転車に乗った。
十二月の朝の空気はひんやりしていて、鼻を抜ける風がツンとして気持ちが良かった。
「あら、あの新築の家クリスマス仕様にイルミネーションを飾っているわ。夜になると綺麗なのね……って、え?」
ふと目に入って来た新築一戸建ての門の所に、見知った顔が居た。
「昌輝……さん……?」
それは、まごうこと無き青木昌輝その人だった。そして、その門の所には赤ん坊を抱いている若い女性も居る。
「どういう事……?」
私は自転車を急停車させて、フラフラとその家に近付いて行った。
「じゃ、行ってくるよ、久美子」
「いってらっしゃい、あなた。ほら、パパいってらっしゃーいって」
赤ん坊の手を取りひらひらさせている女、それに鼻の下を伸ばして答える昌輝。
「どういう事よ!」
私はその一家の前で大きな声を上げた。
「え? あ! 薫子!?」
昌輝は顔面蒼白といった様子でこちらを見た。
「あなた? この方誰なの?」
「いいい、いや、その、昔の部下! そう、昔の部下だよ! ちょっと込み入った話があるからお前たちは家に入っていなさい、ね!?」
昌輝の横に居た女は怪訝そうな顔をして、赤ん坊を抱いたまま家の中に入って行った。
「で、どういう事なのよ! あの女は誰!? それとあの赤ん坊は!? いつ帰国したの!? 私との結婚はどうなったの!?」
私は矢継ぎ早に質問の雨を降らせる。
私の異様な怒鳴り声に、近所の数名が門から顔を出してこちらを眺めている。
私は昌輝に言われるがまま駅前のカフェに連れて行かれた。
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