最終話:心のままに

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最終話:心のままに

 昌輝を問い詰めて分かったのは、彼は私と出会った頃からすでに既婚者で、遊ぶ相手が欲しくてお見合いパーティーに参加したとの事だった。その時は奥さんが妊娠中で、思ったようにセックスできない事が不満だったようだ。  奥さんの産み月が近付いてきて、私を捨てたくなった彼は、海外出張に行くと嘘をついたらしい。  私と式場を仮押さえした事は、結婚したいと言っていた私の勢いに押されての事だったそうで、奥さんと別れて私と結婚する気などミクロンも無かったという事だった。  そういえば、私は彼から明確なプロポーズをされたわけではなかった。私の結婚願望が高まり過ぎていて、ノリと勢いで式場を仮押さえしただけだった。  ずっと日本に居た事がバレてはまずいので、LINUも通話やビデオ通話はせず、メッセージのやり取りだけにしておいた、と。ちなみに、そのメッセージのやり取りもそろそろフェードアウトしようとしていたらしい。 * ** *** 「きいいいい! くーやーしーいー!! 結局私は知らない内に不倫していて、しかもあっけなく捨てられてたってどういう事なのよー!!」  その日の夜、私はまたかず君を呼び出して居酒屋で吠えていた。昌輝が海外出張に行ってからというもの(実際は行っていなかったが)、週に一度はかず君を呼び出して愚痴を言いまくっていた。 「まったく……そんな事だろうと思ってたよ……」 「ほんとそうよね! って、え?」  かず君は私の目を真っ直ぐに見つめている。 「俺は、薫子は青木に弄ばれてるって、何となく分かってた」 「そんな……」  私の涙腺が崩壊する。涙がボロボロと溢れて来る。 「俺、さ。自分の気持ちに気付こうともせず、自分の中の答えを伸ばし伸ばしにしてあやふやにしてきてたんだよね」 「だにいっでんどよ(なにいってんのよ)……ばげばがらだいばよ(わけわからないわよ)……」  私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔でかず君の言葉に耳を傾ける。 「だからさ、俺がこの半年間、今まで以上に薫子の世話を焼いてたのって、結局はそういう気持ちなんだなって。分かる? 俺、昔も今もずっと薫子が好きだよ」 「!!」  かず君は、優しいけど夢見がちで収入も不安定なフリーター。でも、誰よりも心が優しくて、何よりも私を大きな愛情で包んでくれる。  昌輝みたく、大手商社に勤めてお金があるわけでもない。スマートな身のこなしでもない。オーダーメイドのスーツなんてとてもじゃないけど買えない。でも……。 「な? 薫子。薫子の世話は、俺が一生するから……」  これは夢なんでしょうか、神様。私みたいに我儘で、人の好意に甘えてその人を振り回して来た私に、それでもいいよと、それでも愛しますと言ってくれる人がいるなんて。  私はもう、その答えを引き延ばさない。これからは心のままに生きよう。 「よろしくお願いします。一生よ、一生面倒見てもらうからね……」  災い転じて福となすとは、こういう事を言うのだろうか。  少なくとも、私は一生愛するに相応しい男を手に入れた。ううん。ずっと前から彼とは出会っていて、その答えに気が付かないふりをしていただけ。  ごめんね、かず君。そしてありがとう、かず君。  あなたが勇気を出してくれたように、私も勇気を出してあなたの懐に飛び込みます。  だから、これから一生よろしくね、かず君────! ────了
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