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第1話
「どう?」
一人暮らしの部屋に見合った小さなテーブルに向かい合って座る二人。
その部屋の主である彼の姿を不安げに見つめる理沙。
不安と共に少しばかりの期待もある。
少しだけ身を乗り出し、大きな瞳を更に大きくして答えを待つが、パスタを頬張るだけの啓斗。
「うん。まぁ…ふつう」
がっつくように食べた後の感想がこれだ。
麺も、ソースに合わせた物を使い、こだわりを見せた一品だ。
自分でも上出来だと思う一品。理沙史上、最高傑作と言える料理だ。
休日を料理のために使うのは、理沙にとって初めての事であり、彼氏である啓斗のためやったことだ。その努力も実ることなく、啓斗の心無い一言で打ち砕かれる理沙。
「ふつうって何?美味しいとか不味いとかない?」
ふつうと心無い答えをしながらも、次々とパスタを口に運ぶ啓斗。
その姿を見れば、作ったパスタが美味しいというのは一目瞭然なのだが、理沙の表情は晴れやかなものではない。
さらに輪をかけて、啓斗の言葉が理沙を突き刺す。
「不味かったら食わんけぇ」
ただ素直に美味しいと言うだけでいいのに、わざわざ傷つくような言葉を選ぶように言うのが腹立たしく、それを啓斗にぶつけた。
「あのさ!美味しいって言えないの?」
「ん?」
「ケイトはいつも言葉にしないよね」
「そう?」
「そうよ。ちゃんと言って欲しい」
「まぁ、その、あ、あぁ」
相槌にもならないような腑抜けた返事だけ。理沙の欲しい言葉は返ってこない。
「はぁ…分かってないわ…」
その言葉と口調で理沙が苛ついているのは啓斗にも分かった。
「おかわりあるん?」
啓斗なりに、美味しいという意味での言葉だったが、その言葉が聞きたかったわけではない理沙は、あてつけるように冷たく返した。
「私の分も食べれば……普通の味だけど」
「お、ありがと」
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