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だが、享は、早々に店を出るという。
席に座ろうとする啓斗の肩をつかんだ。
「ケイト。帰ろうや」
推しがラスト。さらにリハーサルの通り行けば、閉店までいる流れだったので、啓斗は、少し驚き聞き返した。
「え?マジで?希子ちゃんラストなのに?リハと違うやん」
「ズルズルと引きずらんためじゃ。カッコつけさせろ」
「ほぉ。リハよりカッコつけとるじゃん」
入店したが、席に着くことなく店を出る二人。
店を出て、繁華街を無言のままブラブラと歩いた。
いつも賑やかな享が無口でいる。
そういうことは稀有な為、啓斗も必要以上に気を遣う。
お互い、気を遣わずとも通じる仲であるのに、言葉が思いつかず、同じように無言で隣を歩く。
推しの離脱。彼女ではないが、安くはないブランド品をプレゼントした相手だ。
啓斗は、勝手に享の感情が寂しいものだと決めつけ、どうにか慰めようと言葉を探していた。
啓斗の慰めの言葉より先に、享がポツリと呟く。
「希子ちゃん。可愛かったな」
その言葉は、ただ啓斗と享が思っていた共通のことを言葉にしただけの物。繁華街のビルとビルの間から見える月を見上げながら、享は希子の顔を思い出していた。
慰めの言葉を考えついているはずもなく、啓斗は共感するくらいしかできない。
「あ、あぁ。うん……可愛かった」
「そうなんよ~。俺の推しじゃったけぇ当然よね。アレは可愛かった」
すでに、アレと呼んでしまうほどの切り替えのはやさ。
享の返事は、暗いものではなく、どこか吹っ切れたように感じた。
「諦めつくんか?希子ちゃん、追ってみる?」
神妙な面持ちの啓斗に、そこまでの心配するのかとばかりに、肩を叩きながら答えた。
「はははは。そこまでハマってないわ」
「お?」
「ケイトがリサにハマったのとは違うんよ。ガールズバーの女には手を出さんよ」
「ちょい!」
「はははは。まぁ、ケイトはリサと付き合っとるけぇ、そういう恋もありだなとは思うけど俺には無理だわ」
「ま、周りには色々言われたけぇな」
昔の話だと、狭い夜空を見上げる啓斗。
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