第2話

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 だが、享は、早々に店を出るという。 席に座ろうとする啓斗の肩をつかんだ。 「ケイト。帰ろうや」  推しがラスト。さらにリハーサルの通り行けば、閉店までいる流れだったので、啓斗は、少し驚き聞き返した。 「え?マジで?希子ちゃんラストなのに?リハと違うやん」 「ズルズルと引きずらんためじゃ。カッコつけさせろ」 「ほぉ。リハよりカッコつけとるじゃん」  入店したが、席に着くことなく店を出る二人。 店を出て、繁華街を無言のままブラブラと歩いた。 いつも賑やかな享が無口でいる。 そういうことは稀有な為、啓斗も必要以上に気を遣う。 お互い、気を遣わずとも通じる仲であるのに、言葉が思いつかず、同じように無言で隣を歩く。  推しの離脱。彼女ではないが、安くはないブランド品をプレゼントした相手だ。 啓斗は、勝手に享の感情が寂しいものだと決めつけ、どうにか慰めようと言葉を探していた。 啓斗の慰めの言葉より先に、享がポツリと呟く。 「希子ちゃん。可愛かったな」  その言葉は、ただ啓斗と享が思っていた共通のことを言葉にしただけの物。繁華街のビルとビルの間から見える月を見上げながら、享は希子の顔を思い出していた。 慰めの言葉を考えついているはずもなく、啓斗は共感するくらいしかできない。 「あ、あぁ。うん……可愛かった」 「そうなんよ~。俺の推しじゃったけぇ当然よね。アレは可愛かった」  すでに、アレと呼んでしまうほどの切り替えのはやさ。 享の返事は、暗いものではなく、どこか吹っ切れたように感じた。 「諦めつくんか?希子ちゃん、追ってみる?」 神妙な面持ちの啓斗に、そこまでの心配するのかとばかりに、肩を叩きながら答えた。 「はははは。そこまでハマってないわ」 「お?」 「ケイトがリサにハマったのとは違うんよ。ガールズバーの女には手を出さんよ」 「ちょい!」 「はははは。まぁ、ケイトはリサと付き合っとるけぇ、そういう恋もありだなとは思うけど俺には無理だわ」 「ま、周りには色々言われたけぇな」 昔の話だと、狭い夜空を見上げる啓斗。
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