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その言葉を全部聞く前に、身を乗り出し、無理やりに理沙の唇を吸う康孝。咄嗟の出来事に、避けることが出来なかった理沙は、身をよじり、康孝の顔を押しのけた。
ゴシゴシと削るように唇を拭う理沙。
「……マジないわ」
「ん?」
「帰る。食事だけって話じゃなかった?」
「は?いまさら何言うとるん?20万じゃ少ないんか?」
「違う。そういうんじゃない」
「っち…ごちゃごちゃ言うな…このまま帰れる思うちょるんか?」
「脅し?」
「大人しく、やらせりゃいいんじゃぃ。月20万ならいいじゃろが!」
「ここで大声出せば、疑われるのはどっちか分かるよね?自分がしたこと分かるでしょ」
「っち。声出せないようにしちゃろうか?」
康孝の恐喝のような物言いに、理沙は咄嗟に、呼び出しボタンを押した。
「あ、会計おねがいします」
理沙は、脅しに屈せず、立場的に加害者は、あなたの方ですよと言い返し、そのまま店を出た。康孝が追ってこなかったのが救いだった。
こういった情事に慣れているわけではない。
未だ震える手で、スマホを操作し、震えた声で電話を掛けた。
「あ…あか、あかりさん。最悪だ。用心してたけど」
「んっと…あ、アフターの話?」
「逃げてきた」
「逃げてきた?って…常連さんだし、大丈夫だとは思ったんだけど、人は見か
けによらないね」
「もう!もう!もう!」
受話器越しでも、震える声で、理沙が普段とは違うことは分かった。
「ごめん。今どこか分かる?」
理沙は、ネオンの光る看板を見回し、共通の行きつけの店を見つけた。
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