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飲む気にはなれなかったが、断るのも違う気がして、友香の差し出すメニュー表を見た。
「じゃ、麦緑で」
言いながら、友香の正面に座る。
理沙の元に、麦焼酎の緑茶割が置かれると同時に、あかりが席に戻ってきた。
「お、リサ。おつかれ。私が仕返しするわよ」
「はい?」
何を言わなくても分かっていた。
あかりは、慌て震える声だった里沙の声から、心情を察していた。
電話越しに宥めることも出来たのだが、そうはしなかった。
あえて茶化すことで、少しでも理沙の気を晴らそうと考えていたのだ。
「酷いことされたんでしょ?ここまでくれば心配ないから」
「……言いたくない」
「さっきは茶化したけど、震えてる声で分かったわ」
「…最悪だよ!あんな人だとは思わなかった」
「大丈夫…大丈夫よ」
そう言い理沙の肩を優しく撫でたが、それよりも怒りの方が大きかった。
誰でもない自分に対しての怒りだ。
康孝から感じた少しばかりの違和感を野放しにした結果だ。
実妹のように可愛がる理沙を精神的に傷つけたのは、康孝だったが、それを止められなかった自分に腹が立っていた。
いつもと様子が違うあかりを見て、自分の行動を反省する理沙。
俯く理沙に、友香が聞いた。
「リサ。何があった?言える範囲で良いから教えて」
「やらせろって…」
「あぁ。よくあるやつね」
「……と」
声に出さず、嚙み締めた唇を手の甲で何度も拭う。
理沙から全てを聞かなくても、その仕草でやられたことは分かった。
友香はあかりに視線を刺した。
「だとさ。どうするつもり?」
怒鳴りつけるわけではない。あかりが答えやすいように、あえてゆっくりと静かに言った。
しかし、あかりがすぐに答えることはなかった。
友香と理沙が、あかりを見つめ答えを待つが、その二人を見ることなく、天井を見つめながら申し訳なさそうに答えるあかり。
「経営者って、何でも欲しがるのかな?そうだとしたら迂闊だったわ」
「いやいや。そうとは限らんだろ。そいつに問題ありだ」
「でも、常連だし…お店の売り上げに貢献する奴だし…少しならって…」
あかりの答えは、友香が想像していた答えの中でも悪い方の答えだった。
「そっちの答えか…ってバカだろ。キャスト売りばすようなことすんな」
これには、あかりも咄嗟に返した。
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