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差し出された理沙が一口だけ食べたパスタも、がっつくように食べきる啓斗。
その仕草から、口に合うものは出せたと思った理沙だったが、その意は微塵も出さず、先ほどと同じような言い方で啓斗に言う。
「食べ終わったんなら洗うよ」
啓斗の前の空っぽになったパスタ皿を指さす。
「あ、うん」
「もう。ごちそうさまくらい言ってよ」
「あ、あぁ」
「はぁ…そういうとこだよ。ケイトの残念なところは…」
理沙は、空いた皿をシンクに運び、不機嫌さを隠すことなく顔に出し、洗い物を始めた
歳は啓斗の一つ下だったが、啓斗が頼る方が多かったし、主導権は理沙の方にあった。
こうなったときの啓斗の対応は、無暗に機嫌を取ることではなく、一歩引いたところで、静かに理沙を見るにとどまる。
それしかできないからだ。
機嫌を取り、皿ぐらい洗おうと言おうものなら、機嫌取りならいらないと断られることを、身をもって知っていた。
そんな啓斗に構うことなく、さっと皿を洗い終え、理沙はキッチンを見渡した。
日頃から、簡単な料理はしている啓斗。そうであってもキッチンが綺麗であるとは結び付かない。理沙的には許せない汚れもある。
IHヒータの焦げ付き、換気扇の油汚れ。それに目をやったが、掃除する気にはならず、皿洗いで濡れた手を拭き、手を止めた。
「やめた…いいや」
そういい、リビングに戻った。
啓斗は、いつもと変わらない自分を装っているが、理沙を苛立たせたことを気にしてながらスマホを見ていた。
その啓斗の表情から、いつもの感じだと思ったが、面白くない理沙。
この日は、啓斗の為に苦手な料理を振舞ったのだ。
そのお礼の言葉すらなく、仕打ちのような言い分。
このままだと啓斗と口論になるのは分かり切っていた。
「じゃ、帰る」
啓斗には考えもしなかった言葉だ。しかし、スマホから視線を移すことはない。
料理まで作った彼女が、それだけで帰るということはないという啓斗の持論。
「えっ?泊まらんの?料理まで作ったのに?」
「てか、どういう理屈よ。料理したら泊まるって?この状況で、私の機嫌どうなってるか分かってて言ってる?」
そう言われてようやく理沙を見る啓斗。
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