第1話

2/6
前へ
/32ページ
次へ
 差し出された理沙が一口だけ食べたパスタも、がっつくように食べきる啓斗。 その仕草から、口に合うものは出せたと思った理沙だったが、その意は微塵も出さず、先ほどと同じような言い方で啓斗に言う。 「食べ終わったんなら洗うよ」 啓斗の前の空っぽになったパスタ皿を指さす。 「あ、うん」 「もう。ごちそうさまくらい言ってよ」 「あ、あぁ」 「はぁ…そういうとこだよ。ケイトの残念なところは…」  理沙は、空いた皿をシンクに運び、不機嫌さを隠すことなく顔に出し、洗い物を始めた 歳は啓斗の一つ下だったが、啓斗が頼る方が多かったし、主導権は理沙の方にあった。 こうなったときの啓斗の対応は、無暗に機嫌を取ることではなく、一歩引いたところで、静かに理沙を見るにとどまる。 それしかできないからだ。  機嫌を取り、皿ぐらい洗おうと言おうものなら、機嫌取りならいらないと断られることを、身をもって知っていた。 そんな啓斗に構うことなく、さっと皿を洗い終え、理沙はキッチンを見渡した。  日頃から、簡単な料理はしている啓斗。そうであってもキッチンが綺麗であるとは結び付かない。理沙的には許せない汚れもある。 IHヒータの焦げ付き、換気扇の油汚れ。それに目をやったが、掃除する気にはならず、皿洗いで濡れた手を拭き、手を止めた。 「やめた…いいや」  そういい、リビングに戻った。 啓斗は、いつもと変わらない自分を装っているが、理沙を苛立たせたことを気にしてながらスマホを見ていた。  その啓斗の表情から、いつもの感じだと思ったが、面白くない理沙。 この日は、啓斗の為に苦手な料理を振舞ったのだ。 そのお礼の言葉すらなく、仕打ちのような言い分。 このままだと啓斗と口論になるのは分かり切っていた。 「じゃ、帰る」  啓斗には考えもしなかった言葉だ。しかし、スマホから視線を移すことはない。 料理まで作った彼女が、それだけで帰るということはないという啓斗の持論。 「えっ?泊まらんの?料理まで作ったのに?」 「てか、どういう理屈よ。料理したら泊まるって?この状況で、私の機嫌どうなってるか分かってて言ってる?」  そう言われてようやく理沙を見る啓斗。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加